「めがね」のはじまりは、110年以上前の冬のこと。
温厚な笑顔が印象的な牧野市長より、こちらが恐縮してしまう程の丁寧なご挨拶を頂戴した後、早速鯖江のめがね産業の歴史から伺ったところ、市長はなめらかにこう語り始めてくださいました。「鯖江でめがね作りがはじまったのは、明治38年のことです。冬場は非常に雪が深くなる地域ですから、農閑期にはほとんど仕事がなかった当時の鯖江に、大阪から福井経由でめがね職人の技が伝承されたのがきっかけでした」。現在では、今治市のタオルに次いで、鯖江市のめがねは全国的に知られている国産品ですが、農閑期の副業が事の起こりだったという事実に驚きつつ、なぜこれほどの知名度を得るまでに産地として発展できたかを伺うと、「この土地で働く人々の、粘り強く、創造性に富んだ職人性こそが鯖江産業の原動力に他なりません」とおっしゃり「だからこそ、時代の波にもまれながらも、さらなる発展を目指し、新商品や新分野へのチャレンジを絶えず続けることができるのだと思います」と、語気を強めて語ってくれました。
鯖江復興を目指した、
「めがねのまち」のブランド化。
今や「めがねのまちさばえ」のブランド力は、日本国内はもとより国外で通じることも少なくありませんが、その発展の陰には、企業の皆様の技術力を後押しする形で市が取り組んだ「元気再生事業」や民間有志による「SBW(Sabae Brand Working group)」の功績もあるのだと牧野市長は教えてくれます。「元々、鯖江のめがね産業はODMやOEMの産地として発展してきたもの。技術的には最高級品を支えるレベルに達していながら、自ら売れるものを企画・販売することに消極的だったこともあり、なかなかオリジナルブランドとしての地位を確立できずにいました。そこへ近年の、安価で大量生産が得意な中国や、デザイン力やブランド力を持つイタリアの台頭が追い打ちをかけ,国内市場での鯖江の存在感は右肩下がりに。このままでは鯖江に未来はないと、自治体と次世代を担う若手経営者が一丸となり、鯖江の確固たるブランド化を目指したのです」。
まずは自治体が、
本気で取り組む必要があった。
「元気再生事業」の目的は、「100余年にわたり培われてきた技術に、流行のエッセンスを付加することで、産地およびメーカーの活性化を実現」することにあると、牧野市長は言います。そこで今から約10年前、2009年に市長がいち早く目をつけたのが「東京ガールズコレクション(TGC)」でした。史上最大級のファッションフェスタであるTGCを通じて、20代女性の消費に大きな影響力を持つ人気アパレルブランドと新商品を共同開発。「若者向けブランド×地方産地」というその新しい試みとTGCの情報発信力により、鯖江市の取り組みはマスコミ等で大きく取り上げられ、当初の予想を超えるPRにつながったのだそう。「さらにその業績は、鯖江市のめがね業界自体へも“自治体の本気度”を示せる結果となり、めがねのまちのブランド化に向けたその後の活動において、強固な協力体制を得ることができたのは大きな収穫でしたね」。先に挙げたSBWもこの時をきっかけとして誕生したのだと言います。
ブランド化は、
ゴールではなくスタート。
SBWのメンバーは、業種も立場も異なる、それぞれの企業の2代目、3代目。計10名が集い、コンセプト立案からブランドマーク制作、長期的なプランニングまでを手掛けたと言います。「中でもブランド(認証)マークの制定は、ブランド価値の市場認知に留まらず、各企業が製造ラインの一工程を専門的に担うめがね産業において、想いをひとつにすることにも一役買ったと言えます。各企業のモチベーションアップにもつながりましたし、デザイン力を磨こうと新たにデザイナーを雇用したり、ここ数年都内の展示会で賞を受賞されたりと、実売に繋がる変化も生まれました」。そう語る牧野市長は、産地のブランド化がゴールなのではなく、ブランド力を足がかりに「売れるめがねを作っていく」ことこそが重要なのだと説きます。「行政としてできることはきっかけ作りだけかも知れませんが、そのきっかけから動き始めた歩みが止まらぬよう、今後も絶えず支援を続けていきたいですね」。
「専業」を守りながらも、新しい道へ。
ブランド化実現の次を考えたとき、各々のプロフェッショナルな技術を活かした分業体制を守りながらどう進化していけるかが鍵だと、牧野市長はおっしゃいます。「メディカルやウェアラブルといった新産業への進出を、産地全体で果たしていく必要があるでしょうし、当然販路を広げるという意味では海外も視野に入ってきます」と言葉を続けました。
「時代が変わろうとも、鯖江企業の皆様が共通してお持ちのものづくりへの思想を基盤とし、自治体と企業が“鯖江復興”というひとつの目標に向かって共同していければ、“めがねのまちさばえ”を次の100年へ引き継いでいくことができると私は信じています」。その体制に、ジェグテックとの連携も加わればさらなる力になるはずと、牧野市長からは大きな期待を寄せていただきました。「職人気質の経営者が多い鯖江ですので、自社の技術を正確に伝えるマーケティング力をお持ちでない企業様がまだまだおられます。当人達が当たり前だと思ってしまっている魅力を、客観視して多言語で伝えていただけるジェグテックのような存在にぜひお力添えをいただきたく思っております」。
FROM J-GoodTech
今回お話を伺った鯖江市様は、地元の企業をサポートするという目的において、
我々ジェグテックと同じ立場であると言えます。
めがね産業の国内市場縮小を受け、自治体として何ができるのかを常に模索している姿には、
我々も学ぶべき点があると感じましたし、ジェグテックと連携させていただくことで
企業様へのサポートの幅が広がる可能性もまた感じました。
自治体様はより地域に密着したサポートに注力いただき、
我々ジェグテックは海外も視野に入れたもう少し広域のサポートや、他業界とのマッチングを担当するなど、
それぞれの長所を活かして連携することも可能です。
他の地方自治体様も是非ジェグテックをご活用いただければと思います。