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漂着した海洋プラごみを地域でクリーンエネルギーに変える新技術

株式会社エルコム 常務取締役 相馬 嵩央 氏

大量に漂着する海洋プラスチックごみの問題は国内でも深刻化しています。
この問題の解決のため札幌市の株式会社エルコムは、独自の技術でプラスチックごみを圧縮燃料化するとともに、
クリーンエネルギーに変える樹脂ボイラを開発しました。
ごみ処理で排出される温室効果ガスや処理費用を大幅に削減し、
地域循環型のエネルギーを生み出す技術に、自治体、企業などからの期待が高まっています。エルコムの新技術について聞きました。

海洋プラごみの解決に取り組み特殊ボイラを開発
カーボンニュートラルの取り組み又は企業の特長

海岸に漂着した大量の海洋プラスチックごみを、ごみが発生した地域でエネルギーとして再資源化する――長年期待された技術が、ついに現実のものになりました。

北海道札幌市で環境機器などを開発している株式会社エルコムは、従来からノウハウを持つ圧縮技術によって、発泡スチロールなどからできた大型のフロートを破砕、圧縮して、樹脂ペレットとして再資源化を進めています。さらに、この樹脂ペレットを温水や蒸気などのクリーンなエネルギーに変える特殊ボイラ「イーヴォル」を開発しました。

大量のごみの漂着は全国で問題になっています。ごみ全体のうち、約80%を占めるのがプラスチックです。特に養殖いかだなどに使用されるフロートが多く、放置しているとプラスチックの粒が削れていき、マイクロプラスチックとして半永久的に海に漂うことが、世界的にも問題になっています。

エルコムがこの問題に関わったのは、2007年に水産庁の外郭団体による実証実験に参加したことがきっかけでした。プラスチック製のフロートを破砕して空気を抜くことで、ごみの量を10分の1に減量。さらに独自に開発した圧縮機で40分の1に圧縮して、樹脂ペレットとして燃料化することに成功しました。さらにこの燃料を、ごみが発生した地域で活用できないかと考えて開発を始めたのが特殊な樹脂ボイラです。しかし、実用化には課題があったと相馬常務は説明します。

「最も苦労したのは、有毒ガスを発生させないようにする技術の開発でした。10年がかりで取り組んだ結果、排ガス中のダイオキシン濃度を規制値の40分の1まで抑えることに成功し、クリーンな燃焼を実現するボイラが完成しました」

温室効果ガス排出量と処分コストを大幅削減
機能/特長/強み

樹脂ボイラの「イーヴォル」は、独自の熱エネルギー変換技術によって、樹脂ペレット化されたプラスチックごみを完全燃焼し、温水と蒸気を取り出すことができます。プラスチックごみが発生した地域での利用を前提にしていることから、ボイラは比較的小型で、湯を貯めるタンクを既存のボイラに干渉することなく接続することができる、環境アセスメント不要など、導入しやすいのも特長です。

ごみの破砕・圧縮と樹脂ボイラを組み合わせたシステムを導入することで、環境への負荷を大幅に軽減できます。

大量の漂着ごみを従来の方法で処理しようと考えた場合、一部はマテリアルリサイクルができたとしても、ごみは汚れも多いため、大半は外部に委託して焼却処分しなければなりません。輸送や焼却によって温室効果ガスが排出されるほか、焼却するために使う化石燃料についても、輸送や製造の際に温室効果ガスが発生します。

この過程をエルコムのシステムに置き変えることで、まずごみ自体は大幅に圧縮されたうえで、樹脂ボイラによってエネルギーに変わります。そのエネルギーを、利用することで、従来の化石燃料は不要になり、ごみ処理で発生する温室効果ガスは98%カットされます。化石燃料の製造や輸送も不要になることから、一連の過程で削減される温室効果ガスの量は年間で最大290トンです。290トンは2万本のスギの木が1年間に吸収する二酸化炭素の量に相当します。

さらにコストの大幅削減にもつながります。エルコムのシステムの導入により、既存の施設で使用していた年間9万リットルの燃料使用量が削減され、燃料単価100円/Lとすると、約900万円の削減となります。また年間100トンの廃プラスチックの排出抑制ができ、通常かかる処分費用も900万円(処分単価90円/㎏の場合)が削減され、あわせて年間1800万円ものコストが不要になります。

大量の海洋ごみの処分に悩む長崎県対馬市に導入
具体的な使用シーン、ターゲット、使用例、活用実績

特殊な樹脂ボイラを導入することになったのが、長崎県の離島の対馬です。韓国から約50キロの距離にある対馬では、中国や韓国など海外から大量の海洋ごみが流れ着くことから、ごみの処理が大きな課題となっていました。エルコムでは対馬市と協力して2021年2月から漂着した発泡フロートを圧縮して燃料化するシステムに取り組み、2022年2月には漂着した硬質プラスチックごみを破砕して燃料化するシステムも導入。2023年度からは樹脂ボイラによる地域エネルギーの創出を予算化して、本格稼働を始める見通しです。

この取り組みはエルコムなど14の企業・団体によって進められている「クリーンオーシャンプロジェクト2050」の一環でもあります。プラごみは発生元でゼロにするとともに、創出したエネルギーをまちづくりに活かす取り組みが進められています。

対馬市の場合は、海洋ごみから作ったエネルギーを、公共の温浴施設の熱源として利用することや、海でのごみ拾いから有効利用までの体験型エコツーリズムによって、修学旅行を誘致することなどが検討されています。

また、瀬戸内海の沿岸部では、近海で発生した海洋ごみが大量に漂着する地域も多く、広島県内などではフロートのごみが50%以上を占めるケースもあります。エルコムでは水産庁の実証実験で破砕と燃料化に取り組んできた実績があり、海洋ごみ問題に悩む自治体や漁業関係者などにも、対馬市で導入が進んでいるシステムを紹介しています。

「当社のシステムを導入すれば、他の地域から流れ着いたごみの処分費用を負担する必要もなくなります。何よりも、これまでごみとして考えていたものが資源として活用できます。海洋ごみに対する考え方を変えてみませんかと自治体などにお話させていただいているところです」(相馬常務)

カーボンゼロを目指して二酸化炭素の活用も研究
カーボンニュートラルの取り組み又は企業の特長

樹脂ボイラには設置のしやすさにも大きなメリットがあります。廃棄物などを焼却処分する設備は通常焼却炉に区分されますが、温水を生み出す部分は無圧式温水発生器、蒸気の部分は簡易ボイラとする見解を労働基準監督署が出しています。国内で唯一焼却炉に区分されていないため、設置の際に環境アセスメントなどが不要になり、スピーディーな導入が可能です。

エルコムでは圧縮技術で漂着ごみや企業から出るごみを減らし、樹脂ボイラでごみのエネルギー化をはかることで、カーボンニュートラルに貢献しています。今後はこの樹脂ボイラをさらに改良することによって、カーボンゼロの実現を目指す構想を持っています。

「樹脂ボイラは温水と蒸気を熱源に変えていますが、排気に含まれている二酸化炭素も活用したいと思っています。その方法として、ハウス栽培などの熱源としての利用に加えて、養殖や農業、藻場などの育成促進に活用することを検討しています。さらに研究を進めて、完全循環型の仕組みを作りたいですね」(相馬常務)

さまざまな環境技術を開発するエルコムは、工場を持たないファブレス会社です。そのメリットを生かして、変化の早い社会情勢に対応した技術や製品を多数開発しています。その一方で、会社の規模が小さいため、新技術の認知を広げるところまで手が回らない部分もあり、今後は企業とのパートナーシップも拡大していきたいと相馬常務は話しています。

「樹脂ボイラは新規事業です。まだまだ多くの企業に知っていただきたいし、広めたいと思っています。そのために、中小機構のJ-GoodTechの活用や、イベントに参加することで、マッチングの機会を増やしていければと考えています」

ABOUT COMPANY

株式会社エルコム
北海道札幌市北区北10条西1-10-1 MCビル
受賞実績:第5回ジャパンSDGsアワード特別賞
資本金:2900万円
従業員数:15名

常務取締役 相馬 嵩央 氏
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