産・学・公で抵抗低減技術を研究開発
カーボンニュートラル等に貢献する製品・サービスの特長
脱炭素に向けた技術と聞くと、まずハードの導入が頭に浮かぶのではないでしょうか。周南水処理が提供している「LSP-01」はハードではありません。ビルや工場、病院、ショッピングセンターなどの大型施設で使われている循環配管内に投入するだけで、電気代を大幅に抑えることができる配管抵抗低減剤です。
周南水処理は、水処理薬品などを製造する水処理メーカーの栗田工業の販売特約店として1985年に創業し、クリタグループ製品の販売業務や、技術サービスの提供を行ってきました。1992年からは周南水処理を含む周南地域の中小企業と山口大学、それに公益財団法人周南地域地場産業振興センターの産・学・公で抵抗低減技術の研究に取り組み、「LSP-01」を開発。事業化に向けた協同組合が設立され、2015年からは周南水処理が協同組合の事業を継承して、「LSP-01」の製造と全国展開を進めています。
抵抗低減剤の研究は、1948年に英国の研究者が希薄な石鹸またはポリマーが乱流エネルギーの低減に寄与すると報告したことで始まりました。のちに家庭で多く使われている界面活性剤でも抵抗低減を引き起こすことがわかり、1995年から2000年頃には、全国の企業や大学で抵抗低減剤の技術開発が盛んに進められていました。
周南地域の産・学・公のチームでは、さまざまな施設の配管でテストを繰り返して、数多くある界面活性剤の中から最適なものを選択。界面活性剤に添加すると「棒状ミセル」を形成して、より抵抗低減効果を高めるとされる対イオン剤を混ぜる割合を研究して、「LSP-01」の製品化を実現しました。
少量の投入で省エネルギーに大きな効果
機能/特長/強み
「LSP-01」は数ある抵抗低減剤の中でも、省エネルギーに大きな効果を発揮する製品です。循環ポンプの配管に全体の水量のわずか0.5%にあたる量の「LSP-01」を入れるだけで、通常は乱流が起きている配管内の水に棒状ミセルが発生し、なめらかな流れに変わります。その結果、配管内の流量が増えるので、投入する前よりも低い周波数で、同等の流量が得られることになります。
周波数が低くなると、電力は大幅に削減されます。例えば、関西地区で60Hzの周波数で使用していたのが48Hzに、関東地区で50Hzだったのが40Hzにまで下がると、48%もの電力削減効果が得られます。
さらに「LSP-01」が優れている点は、使用できる温度域が広いことです。
当時、各社が開発した抵抗低減剤は、冷水用・温水用の温度域別の剤や、使用温度域の狭い剤であり、前者の場合、季節ごとに冷房・暖房を切り替える際に、配管内の循環水と抵抗低減剤を全て入れ替える必要がありました。
これに対して「LSP-01」は、5℃の冷水から65℃の温水まで対応できます。季節によって入れ替える必要はありません。どの温度帯でも棒状ミセルができやすく、壊れてもすぐに復元することが可能な原料の配合を発見し、実用化しました。
周南水処理では「LSP-01」を販売するとともに、栗田工業の特約店として培った技術を生かして、定期的な濃度管理や液体の漏れがないかなどを確認しながら、最適な状態を維持するための管理も行っています。
全国200以上の大型施設に導入
具体的な使用シーン、ターゲット、使用例、活用実績
冷暖房に密閉型の循環型システムを導入しているのは、前述したように大型の施設です。
2006年から2007年頃にかけて「LSP-01」の実証テストを実施したのが北海道の札幌市役所でした。1971年に竣工した庁舎は地下2階、地上19階、延床面積42,216㎡の大規模な建物です。
循環水は地下2階の機械室に設置されていた夏用、冬用それぞれの循環ポンプから吐き出されて、8階の空調機室にある5台のブースターポンプを経由して19階の膨張タンクに至り、それから地下2階に戻る循環流路を形成していました。テストでは水質の調整などを実施したうえで注入実験を始めた結果、流量が増えていくことが確認されました、その結果、冬の期間は65%の省エネルギーを達成。夏の期間も47%の省エネルギーになることが証明されました。
結果が発表されたことで「LSP-01」は大きく注目されました。あわせて抵抗低減剤の活用による省エネルギーも再び見直されるようになりました。
「LSP-01」は現在九州エリアから北海道エリアまで、全国200以上の施設で導入されています。最も多く導入されているのはオフィスビルや公共施設、ショッピングモールの商業施設です。半導体工場や自動車工場など、工場の設備冷却システムでも多く導入されています。
また、ESCO事業を活用して導入したケースもあります。ESCO事業は導入する施設が目標とする省エネルギー課題に対して事業者が包括的なサービスを提供し、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るものです。北海道大学病院はESCO事業を活用して大規模な省エネルギーに取り組み、そのうち周南水処理は「LSP-01」を提供して配管抵抗の低減による省エネルギーに貢献しました。
省エネルギーの普及には「可視化」が必要
カーボンニュートラルの取り組み又は企業の特長
周南水処理の社内では、電球を全てLEDに変えるなどの取り組みを進めています。一方で「LSP-01」の省エネルギー効果の大きさを実感しており、松村社長はカーボンニュートラルやSDGsの目標達成に貢献するために、今後もさまざまな建物の省エネルギー化を進めることに力を注ぎたいと話しています。
「持続可能な開発目標であるSDGsが2015年に国連で採択されて以降、さまざまな場面で省エネルギーの技術が求められています。当社の商品も、SDGsの目標で言えば7番の『すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーを確保する』、9番の『強靭なインフラ構築、包括的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る』、13番の『気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる』に貢献できます。特に東京都内の大手企業からのニーズが高まっていると感じていますので、今後は積極的に営業活動をして当社の技術を提供していきたいです。」
また、抵抗低減剤の技術は、大規模な施設以外での利用も期待されています。地中100mから200mに通した細いパイプで水を循環させることで、地中にある余熱を冷暖房として活用できます。その際に抵抗低減剤を使うことで、より効率的に熱を利用できる可能性があります。現状よりも省エネルギーの取り組みが広く普及するためには、可視化が必要だと松村社長は指摘します。
「太陽光発電が家庭に普及したのは、発電量や使用量がモニターで確認できるようになったからです。省エネルギーも目に見えないものですので、データを表示できる仕組みができれば、もっと多くの方にも興味を持ってもらえると思っています。」
ABOUT COMPANY
周南水処理株式会社
山口県周南市築港町6番10号
受賞実績:第8回グリーン・サスティナブルケミストリー賞・環境大臣賞
(山口大学大学院・周南地域地場産業振興センター・エルエスピー協同組合)
資本金:1,000万円
従業員数:16名