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世界初となる波力発電の実用化に向けて取り組む技術ベンチャー

株式会社グローバルエナジーハーベスト 代表取締役 速水 浩平 氏

世界の国々のなかでも長い海岸線を持つ日本で、長年実現が期待されてきたのが波の力で電気を起こす波力発電です。
海の波はエネルギー密度が高いことからさまざまな方法が研究されてきましたが、いまだに実用化に至っていません。
それでも、これまでの研究で得られてきた知見をもとに解決すべき課題を洗い出して、実証実験にまでこぎつけているのが、
神奈川県藤沢市の株式会社グローバルエナジーハーベストです。
慶應義塾大学発のベンチャー企業として2006年に設立して以来、まだ使われていないエネルギーから電力を生み出す研究を続けるなかで、
波力発電について独自の発電機を開発し、数年後の実用化を視野に入れています。
波力発電の現状を、速水浩平代表取締役に聞きました。

波力発電の実用化に向けて課題を3つに絞る

世界中の研究者が40年以上にわたって研究開発を進めてきたものの、いまだに本格的な実用化には至っていない波力発電。数年後の実用化を目指して、複数の実証実験を実施しているのが、株式会社グローバルエナジーハーベストです。波力発電は簡単に言えば、波の力で電気を起こす仕組みです。最初に実用化されたのは日本の製品で、海に浮かぶブイに発電機をつけて、夜間にブイを光らせるものでした。ただ、発電能力は小さく、これまで大規模に発電する技術は開発されていませんでした。

グローバルエナジーハーベストの速水浩平社長は、波力発電の実用化を目指すにあたって、解決すべき課題を明確にしたと説明します。
「波力発電は日本だけでなくヨーロッパやアメリカなどでも40年以上も研究開発が行われてきたにもかかわらず、いまだに実用化できていません。なぜうまくいかないのかを調査して、解決すべき課題を3つに絞りました。1つ目は台風が来たときなどに高波で壊れてしまうことです。壊れないように丈夫に作るとか、太い杭を海底に打ち込むといった対策が考えられますが、それではコストが高くなります。2つ目はフジツボなどの海洋生物が付着して発電機が壊れてしまうことです。3つ目は漁業者のみなさんとの調整が難しいことです。沖合で高い波が来る場所は漁場としても優れています。また、船が航行する場所に発電機を置くわけにもいきません。この3大課題を全部クリアすることが必要だと考えました」

大きな波と小さな波それぞれに対応した発電機
機能/特長/強み

グローバルエナジーハーベストでは、3大課題を解決しようと研究を進めた結果、波力発電の2種類の方式を開発しました。それは大きな波のうねりの力を利用した循環型波力揚水発電と、小さく細かい波を利用する往復型回転加速式発電です。循環型波力揚水発電では、船のような形をした発電装置を使います。

左:往復型回転加速式発電 右:循環型波力揚水発電

発電機の内部に真水が入っていて、本体に波が入ってくると発電装置のフロートが浮いて、発電機内部の真水が持ち上げられます。持ち上げられた真水が装置の中で循環することで、電気を発生させる仕組みです。永久になくなることがない波の力を利用したこの画期的な発電方法は、特許も取得していて、2021年3月には島根県隠岐郡海士町での実証実験も成功させました。2023年には330kWの発電能力を持つ初号機の実証実験を沖縄県の久米島で1年間実施する予定です。

実証写真

一方の往復型回転加速式発電は、小型の発電機を岸壁などに直接設置するものです。海面に四角いフロートが浮いていて、波によってこのフロートが上下すると、発電機についている円盤が回転して発電します。円盤に取り付けられた特殊なギアによって、フロートが上下どちらに動いた時にも発電できるのが独自の技術です。こちらもすでに特許を取得し、久米島で実証実験を実施しています。1機あたりの発電能力は2kWほどで、10機で1システムを構成します。2種類の発電方式を開発した理由を速水社長は次のように説明します。

「海には大きな波と小さな波が両方あります。両方の波に対応して発電できれば、波力を無駄なく電気に利用できると考えて開発しました。もちろん二酸化炭素は一切排出せずに電気を作ることができます。この技術が当社の強みです」

どちらの方式も高波にも耐えられると想定している構造を採用しており、また、海洋生物の影響を受けません。航路や漁場を避け設置できるので漁業者の同意も取りやすく、3大課題は全てクリアされます。

波力発電で日本がエネルギー大国に
具体的な使用シーン、ターゲット、使用例、活用実績

2つの発電方式の特徴は、海岸付近で行われることです。循環型波力揚水発電は、防波堤付近など波の高いところが発電に適しています。一方、往復型回転加速式発電は、波がほとんどない港などの岸壁でも発電できます。日本の海岸線は3万5558kmと世界第6位の長さがあることから、波力発電が実用化すれば、日本が世界有数のエネルギー大国になる可能性があります。

発電した電気の具体的な用途については、さまざまなニーズが寄せられています。そのひとつが養殖での活用です。一例を挙げると、実証場所の一つとなる沖縄県の久米島は、クルマエビの養殖が盛んです。クルマエビの養殖場では、24時間酸素を送りながら水を循環させる必要があり、モーターが常に動いています。現状では高額な電気代がかかっていますが、波力発電が実用化すれば、電気代の負担を軽減させられると予想しております。

また、漁港には漁業組合の施設が建っていることが多く、魚介類を保管するための大型冷蔵庫が設置されているところがあります。こうした施設にも、電力を供給することが可能になります。

岸壁や防波堤の近くなど陸に近いところで発電することは、既存の送電網に繋ぐ際の自営線の長さを減らせる等の大きなメリットもあります。特に、漁協などにはすでに電線などのインフラが整備されているところが多いので、電力系統につなぎやすく、売電にも活用しやすくなります。

発電能力が高い循環型波力揚水発電の開発については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、総務省、国土交通省から受託研究を受けるなど、3つの国家プロジェクトに採用されました。太陽光発電や風力発電は天候状況によって発電量が左右されますが、循環型波力揚水発電は24時間の発電が可能なうえ、水を流す量を変えることで出力の調整も可能なことから、電力の安定的な供給にも寄与すると期待が高まっています。

途上国やアジアの島などでも電力供給が可能に
カーボンニュートラルの取り組み又は企業の特長

社名の由来にもなっているエナジーハーベスティングは、「エネルギーを収穫する」という意味で、2000年頃からドイツを中心としたヨーロッパで広がり始めた言葉です。日常的に存在しているけれども、使われてこなかったエネルギーを活用することを目指す考え方で、2010年頃から日本でも知られるようになりました。

2006年に創業したグローバルエナジーハーベストは、音力発電の社名の頃から、音や振動といったエネルギーを有効活用できないかと、踏むことで発電できる発電床などを実用化してきました。あわせて、空調の温度管理を徹底してこまめに電気を切ることや、基本的にペーパーレスで業務を行うなど、省エネルギーにも取り組んでいます。

これまで開発してきた技術の中でも、波力発電は最も大きな効果が期待できるものです。今後も大規模な実証実験が予定されていて、2つの発電方式のうち、成果が得られた方から先に実用化と発電機の販売に踏み切る方針です。順調にいけば2、3年後には世界で初めて波力発電が実現します。速水社長は実用化に向けた思いを次のように話しています。

「新たな社名にグローバルを入れたのは、日本発の技術を世界に広げたい思いからです。波力発電の開発には当社だけでなく、国内のいろいろな会社に協力していただいています。実用化が実現したときには、世界中の研究者から『やはり最初に実現したのは日本人か』と思ってもらうことが、私のモチベーションのひとつでもあります。世界中には途上国や東南アジアの島でなど、まだ電力が使えない地域もたくさんあります。船の形をした波力発電であれば、どこにでも簡単に設置が可能です。波力は世界で必要とされる技術だと思っていますので、いち早く開発して、世界の人々に貢献したいですね」

ABOUT COMPANY

株式会社グローバルエナジーハーベスト
神奈川県藤沢市湘南台1-1-6
受賞実績
第4回かながわ新エネルギー賞、かながわビジネスオーディション2008優秀賞、かながわキラリチャレンジャー大賞 大賞
資本金:1億円
従業員数:11名

代表取締役 速水 浩平 氏
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