制御基板の実装で創業
横浜電子は、1970年に神奈川県川崎市の京町で創業。松下(現パナソニック)グループの松下通信工業の孫請けとして、基板実装の仕事を主に受注していました。1973年頃から大型の制御盤の注文が入るようになり、メインの取引先も3社に増えるなど、売上げは順調に推移。そのあたりから、制御盤の組配も並行して取り組むようになります。横浜市神奈川区に移転していた同社は、次第に工場が手狭になり、生産体制を整えるために現主力工場である横浜市保土ヶ谷区に移転。しかし次第に円高とバブル崩壊後の景気の波にのまれ、受注が激減し、大きな苦境に立たされます。「当時は下請け・孫請けの仕事ばかりでしたので、景気の波に直接左右されていたんですよね。私は景気が減速しつつあった、ちょうどそんな時期に入社したのですが、入ってからはまず何よりも営業活動に力を入れていました」と話す社長の神田一弘氏。神田氏は、創業者で現会長の永田祥二郎氏の娘婿で、2011年より同社の社長に就任。経営の苦しいときに入社し、持ち前の行動力と営業力で、同社の事業を立て直していきます。「必死でしたね。いろんな仕事を取ってきましたが、でもコアは自社の強みである制御技術。そこはぶれませんでした」。
自立した強い経営を目指すために
自社製品の開発にも着手
2006年頃からは、自社製品の開発にも取り組むようになります。「景気の波に左右されない自立した経営を目指すためには、自社製品を持つことが必要だと考えたのです」と話す神田社長。まず初めに開発に取り組んだのは、放送業界向けのブレーカーボックスです。システムラックに収める機材として、電源を容易に分配して共有する製品で、PSE(電気用品安全法)の認証も受けています。メーカーによってバラバラだった規格の機器類を汎用化している点が特徴で、これによって作業の効率化が図られると評判に。職人らから「このブレーカーボックスを使いたい」と指名で注文が入るまでになります。そして次に開発したのが、完全防水システムラック筐体。同社は元々、国土地理院の海面の昇降を計測する機材の電源部分を担っていましたが、東日本大震災の津波で、これまでの機材が使えなくなってしまったことを契機に、新たな製品を開発したところ、採用。現在は、北海道から沖縄まで、全国の基準点となっているエリアを中心に13箇所の検潮場で、同社の完全防水システムラックが導入されています。
日本国内では唯一の
「熱伝導率測定装置(GHP法)」を開発
補助金を活用しての開発事業もおこなう同社。近年では保温保冷工業界において、種々の保温保冷材料が開発され、これに関する熱伝導率の測定は当然な事柄となっていますが、それまで、断熱材の熱伝導率測定に関し、100℃以上の温度範囲において熱伝導率測定の標準物質となるものがほとんどなく、同質材料であるはずの断熱材の熱伝導率に大きな差が生じるという課題がありました。そこで同社は、長年培ってきた制御技術を用いて、マイナス196℃からプラス300℃までを測定できる平版直説法を採用し、試験体1枚方式で過去の半分の時間で正確な測定を実現する「熱伝導率測定装置(GHP法)」を開発、測定温度範囲内で最大2チャンネルを設けるなど、計測時間の短縮と測定温度の範囲拡大を実現。公的研究機関や民間研究所で、研究開発や品質管理に幅広く利用されています。
顧客の意図を汲み取り開発できるのは
確かな技術力と豊富な経験があってこそ
このように、いろいろなことに取り組む同社ですが、業務の柱は制御基板の開発と実装。グループ企業もあり、機械を使った実装も得意としています。また、同社の特徴は、光を調光するシステムの制御盤も得意としていること。大型ショーのフロート台の制御盤やプラネタリウム投影機など複雑なものも、長年にわたって培ってきた技術力で仕上げています。「うちの強みは社員の技術力・知識・ノウハウです」と話す神田社長。同社の社員の多くは、他社で長年モノづくりのキャリアと経験を積み、再就職で入社した人材が中心で、平均年齢は50歳代だといいます。「従業員の平均年齢が高いことは、私は強みだと感じています。定年後の再雇用や転職者が多いのは、技術力がある上に、企業自体に自由度があるからこそ。入ってこられた方は、自分の技術や想いを実現できる場として、活き活きと仕事をしています」。同社が従業員数8名という規模ながら、既存市場の枠を超えて多角的に事業を行えるのは、保有技術に合わせて商品や仕様を決めるのではなく、エンドユーザーやクライアントの真の意図や意向を汲み取り提案できる、確かな技術力と豊富な経験があってこそと言えるのです。
スマートウェルネスシティを狙う
セキュリティ装置の事業化
そして近年、もう一つの新しい柱を築きつつあります。2015年から新たに取り組み始めた「ライジングボラード(車両突破防止装置)」です。「ボラード(bollard)」とは、岸壁に設置して船を繋留したり、道路や広場などに設置して、自動車の進入を阻止したりする目的の地面から突き出した杭のことを指し、欧州ではセキュリティ強化が必要な場所や、歩行者天国などさまざまな場所で採用されています。昔の取引先で別会社に移籍した知人から相談を受け、試行錯誤を繰り返して開発した商品が「ライジングボラード ONI」。ステンレス製で耐久性にも優れ、部品も製造もすべて日本製にこだわっており、入退場信号で、制御盤から各ポールの動きを制御することが可能な可動式となっています。開発の翌年から大手自動車メーカーで採用され、これまでに120本以上の出荷実績を誇ります。一方、2018年には世界大手の自動昇降ボラードメーカーであるイタリアのFAACと日本国内での販売契約を締結。機能性とデザイン性の両立を図り、この分野での更なる攻勢をかけていこうとしています。
他社との交流や連携を図る
「横浜IoT協同組合」にも参画
また、異業種との交流にも積極的です。先述したものづくり補助金の採択事業者が集まった懇親会をきっかけに、神奈川県内の中小企業8社が集まり、「横浜IoT協同組合」を設立。2019年1月に組合としての設立登記も済ませ、初代理事長として同社の神田社長が就任しました。「横浜IoT協同組合には、うちを含む製造業3社とIT企業5社が参加しています。シーズを持っているところは多いので、ハードとITを組み合わせて、お互いの足りないところを補完し合い、新しい製品やサービスを作っていきたいと考えています」と話す神田社長。今後は同組合の活動テーマである「人づくり×ものづくり」の取り組みを加速させ、IoTに関するシステムの開発・導入やコンサルティング、広報、調査、オリジナルブランド商品の開発等に力を注いでいく予定です。
ジェグテックでのマッチング実績と今後に向けて
これまでジェグテックを通じてマッチングし、新たな取引が開始したこともあるという同社。「ニーズ情報はよく見ていて、提案をすることもあります。ジェグテックの商談会で出会い、制御盤の仕事に結びついた実績もあります」と話す神田社長。今後、ジェグテックでどういう企業と出会いたいかを聞いたところ、「ライジングボラードについては、切削部分で協力し、販売も一緒にやってくれるパートナー。また、当社の制御技術を活かして、ものづくりでお手伝いができるようなファブレスメーカーと出会いたい」と話してくださいました。
FROM J-GoodTech
景気の荒波を乗り越え、逆にそれを契機として、自社製品の開発や新たな事業の柱を打ち立てるなど、
強い経営を手に入れた横浜電子。その推進力には、紛れもなく神田社長の人柄とリーダーシップに拠るところが大きいといえます。
「ただ待っているだけでは何も始まらない。人と出会って、相手の話を聞いて、提案する。
その提案も工夫しないと仕事につながらない。センスが問われるけれど、うまくいかなくても勉強になるし、
提案を繰り返していくことで力にもなる。だから面白いんです」と話す神田社長。
日本の中小企業には優れた技術や考え方を持った企業が多数存在していますが、まだまだ世の中に知られていないのも事実です。
ジェグテックでは、今後もこのような特徴的な中小企業に焦点をあて、
より多くの方の目に触れるような活動を促進していきたいと考えております。