工場監査を導入して化成品原料の輸入ビジネスを開始
渡辺ケミカルは医薬食品事業部、それに化成品事業部を主な柱として事業を展開している。このうち、化学工業製品の原料などを扱う化成品事業部では、輸出については中国市場で確固たる地位を築いてきた。その一方で、2024年2月には輸入を担当する新規開発部を立ち上げた。
新規事業部では、輸入に関する事業をどのように構築されているのでしょうか?
渡邊部長:化成品はこれまで輸出が中心でした。その一方で、当社の医薬品と医薬食品の事業部では輸入が中心となっています。その歴史は古く、輸入している原料も薬の有効成分からビタミン類まで多岐にわたります。そこで、医薬品と医薬食品の事業部が持つ輸入のノウハウを共有させてもらっています。
具体的には、どのようなノウハウを共有しているのでしょうか?
井戸部長:一つは海外工場の監査です。海外工場の監査は、医薬品の部門ではかなり前から実施してきました。製造・輸入のプロセスに明るい薬剤師が複数いて、中国や韓国、ヨーロッパ、インドなどに行き、現地の工場を監査した上で輸入しています。その手法を化成品事業部で2022年から取り入れました。海外現地の工場監査を弊社で行い、弊社基準を満たしている商材のみをお客様に展開しており、出来る限りお客様に安心してご使用いただける体制を作っております。
渡邊部長:工場監査のスペシャリストを採用できたのも、サービスの提供を始めた要因です。採用したのは日系企業で長く監査の仕事を経験してきた中国籍の方で、フットワークが軽く、どこにでもすぐに行くことができます。
他の事業部と共有しているもう一つのノウハウは、お客様が求める原料をすぐに探してくれる、慣れたスタッフがいることです。長い歴史の中でそういう社員が育っていることが大きいですね。
インド市場開拓に向けた課題と期待
化成品については輸出と輸入ともに中国に依存している状況から、東南アジアや南アジアにも広げていく方針だと前編で伺いました。新たな市場の開拓はどのように進めていますか?
渡邊部長:原料の仕入れ先を探すとなると、中国の次はインドが候補に挙がってきます。ただ、インドには拠点がありません。インターネット上で見つけて、マレーシアの拠点から連絡を取るか、日本からメールを送るといった方法でやり取りをしています。そのうえで3か月に1回ほど、日本やマレーシアの拠点からインドに出張している状況です。
しかし、インドは中国と全く勝手が違います。中国の場合は、それほど規模が大きくなくても実力のある企業を、足を使って見つけることができます。これに対してインドではインターネットしか探す手段がなく、この方法で連絡が取れるのは規模が大きな企業だけです。そうなると、他の日系メーカーも見つけることができるでしょうし、私たちが介在する利点を見出しにくくなります。
それでも、インドについては取引先も含めて関心が高いのではないでしょうか?
渡邊部長:半導体業界のお客様は、インドの情報に関心を強くお持ちです。「インドに行ってきます」とお伝えすると、「期待しています」と声をかけられます。一方で、過去にインド製の原料を検討されたことがあるお客様からは、品質がまだまだだったという話もよく聞きます。この状況は現時点でもあまり変わっていません。
インドからの調達が期待できるのは、どのような原料でしょうか?
渡邊部長:樹脂の原料や溶剤、無機化合物なども一部調査を行っています。まだ製品の物性には課題も多いですが、メーカーとユーザーの間に立ち、やり取りを増やすことで精度を高めていきたいと思います。
医薬品と医薬食品の事業部は、インド市場に進出しているのでしょうか?
渡邊部長:医薬食品事業部では、すでにインドで食品添加物の原料を調達できるパートナーを見つけていて、日本から監査スタッフを工場に派遣しています。医薬品の有効成分などを製造するメーカーもインドにはたくさんあるので、グループ内で化成品も扱う企業と付き合うことができれば、大きなリスクを負うことなくインドでのビジネスが成り立つのではないかと思っています。
人口が多いインドは、輸出でも大きな可能性がありますよね?
井戸部長:これからはインド市場が重要です。その次はアフリカだと思っています。日本からどんどん西に攻めていく必要があります。今はインドに拠点を置くことを目標にして動いていますので、インドを切り崩すことができれば、その先も見えてくるのではないかと思っています。
保税倉庫を活用して事業継続計画(BCP)に対応
海外ビジネスを展開するにあたって、新たに求められていることはありますか?
井戸部長:日本では外為法の安全保障貿易管理に係る改正が2025年に行われ、安全保障に関わる製品などを輸出する場合には、経産省に対して輸出管理内部規定の届出が必要になりました。軍事用途につながるものは海外に販売できないなどの規定を作り、すでに届出を済ませています。規定に沿って運用できるように、体制を整備しているところです。かなり手間がかかっていますが、今後海外ビジネスを続ける上では欠かせません。
輸出管理内部規定の届出は、大手商社であればどこも取り組んでいますが、中小企業レベルで取り組む企業はそれほど多くありません。大手に比べて小回りもききますので、特殊な分野の原材料を扱うこととあわせて、当社の特長として打ち出せると思っています。
他にも海外ビジネスで考えられるリスクに対して、対応していることはありますか?
井戸部長:拠点を置いている中国とマレーシアでは、保税倉庫を自社で抱えています。保税倉庫は海外から輸入された貨物を、輸出手続きを取る前に保管しておく倉庫のことです。中国やマレーシアに送った製品を、通関をせず第三国に送ることが可能になります。また、保税倉庫を活用すれば、保税工場で製造し第三国に輸出する加工貿易も可能です。
保税倉庫は結果的に、地政学的リスクにも対応できる部分もあります。中国から日本には直接送ることはできないけれども、マレーシアから日本には送ることができる場合には、中国から一旦マレーシアに送って、そこで保税して日本に送ることができます。事業継続計画(BCP)の観点からも、お客様のお役に立てると思います。
海外ビジネスを続けていく上で、どのようなことが必要だと考えていますか?
井戸部長:私たちは商社という立ち位置なので、もっとビジネスを増やすには、商社から一歩進んで、よりメーカーに近いことに取り組む必要があります。品質を担保するために工場監査をすることもその一つです。右から左に流すだけでは何にもならないので、付加価値をつけたサービスを提供することで、対価をいただかなければなりません。
また、専門性を持った営業も重要です。メーカーは自社の製品には詳しいけれども、全体像が見えていないことが多々あります。商社ではいろいろなものを扱っていますので、競合他社の取り組みなど、全体像を情報としてお届けすることができます。専門性を推し進めていきたいです。
今後の展望については、どのようにお考えですか?
井戸部長:日本製の価格が高い点と、丁寧で細かい点は、良い面でもあり悪い面でもあります。それでも、日本製の品質の良さは、世界のどの国も認めてくれています。付加価値のあるものであれば、さらに市場が広がっていく可能性は十分あります。
今はコストが合わなくても、3年後には合うかもしれません。種を蒔いておいて、何かあったときにすぐ出せる状況にしておく必要があると思っています。
渡邊部長:為替リスクに備える意味でも、輸出と輸入のバランスは必要です。化成品事業部は輸出に強みがあり、医薬品事業部と医薬食品事業部は輸入に強みがあるので、当社全体では輸出と輸入のバランスが取れているとも言えます。それでも、今後は化成品事業部の中でもバランスが取れるように、輸出をさらに伸ばしていきたいですね。
こんな会社です
医薬品・食品・化学工業薬品など幅広い分野に対応する原料商社です。1949年の創業以来、医薬品原料、食品原料、化学工業薬品、動物薬・飼料添加物、化粧品原料など多様な原料を取り扱い、国内外の製剤メーカーへ供給しています。中国・東南アジアの現地法人とのネットワークを活用した輸出入事業を展開し、現地工場の視察・監査も自社で実施。日本国内では欧州大手化学メーカーのディストリビューターとして在庫・品質管理体制を整えています。医薬品原料の認証取得や新薬開発段階からの連携など、技術力と情報提供力を備え、国内外の市場ニーズに応じた原料供給を行っています。
取り扱い概要
医薬品原料、医薬品中間体、ビタミン類、食品原料、化学工業薬品、動物薬・飼料添加物、化粧品原料の供給。中国・東南アジアなどとの輸出入事業、在庫・品質管理を含むディストリビューター業務。
強み
・医薬品・食品・化学工業薬品など多分野に対応
・中国・東南アジア現地法人との海外ネットワーク
・現地工場の視察・監査を自社で実施
・欧州大手化学メーカーのディストリビューターとして在庫・品質管理体制を保有
・医薬品原料の認証取得・新薬開発段階からの連携実績


