J-GoodTech ジェグテック

閉じる
国内・海外市場動向
ヨーロッパの中小企業が取り組むSDGsビジネス

中小企業のためのSDGsビジネス入門 ②

持続可能な社会を実現するための国際目標であるSDGsは、
社会問題や環境問題の解決を促すとともに、世界中で新たなビジネスの潮流を生んでいます。

その動きを主導しているのはヨーロッパの国々です。
ヨーロッパでは大企業だけでなく、中小企業も積極的にSDGsをビジネスに取り入れ、
さまざまなプロジェクトを立ち上げています。

日本の中小企業では、SDGsについての認知度はここ数年上昇しているものの、
実際に自社のビジネスとして取り組んでいる企業はまだわずかです。
「何から取り組めばよいかわからない」と、手付かずの会社も多いのではないでしょうか。

SDGsを自社のビジネスに生かす方法を考える際に、ヨーロッパの取り組みは参考になります。
今回は、世界のSDGsの現状を調査している日本貿易振興機構(ジェトロ)が作成した資料から、
ヨーロッパの現状について見ていきます。

SDGs達成度ランキング上位はヨーロッパの国が独占

持続的な開発目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)は、2030年までによりよい未来を作ろうと、2015年に国連で決議された世界共通の国際目標のことです。「誰一人取り残さない」という基本理念のもとで、持続可能な世界を目指すために17の目標が設定されています。

世界でSDGsの取り組みを主導しているのはヨーロッパの国々です。持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が毎年公表している、世界各国のSDGsの達成度を調査した報告書「サステナブル・ディベロップメント・レポート」によると、2021年のSDGs達成度ランキングの1位はフィンランド。2位はスウェーデン、3位はデンマークでした。4位はドイツ、5位はベルギーで、ヨーロッパの国々が上位を占めています。日本は昨年よりも順位をひとつ下げて18位でした。

ランキング上位の国は、SDGsを国家戦略に位置付けています。ドイツは2002年から「国家持続可能性戦略」を策定。定期的に更新し、2016年からはSDGsに基づいた内容になっています。2021年3月に公表された更新版では、新型コロナウイルス禍を踏まえて、医療システムのデジタル化を進めるとともに、公共医療サービスの強化を盛り込みました。これはSDGsの第3の目標「すべての人に健康と福祉を」が危険にさらされないようにするための対策です。

また、デンマークでは従業員250人以上の大企業に対し、社会的責任であるCSRについて報告することを義務付けています。企業は自社のビジネスモデルの概要や、遂行しているCSR方針、達成された成果に対する評価や将来の予測など、多岐にわたる情報を提出します。

この流れは欧州連合(EU)加盟国に広がりました。EUは従業員500人以上を抱えるすべての企業にCSR報告の開示を求める指令を出し、2018年に初めて企業報告書が発行されました。このようにヨーロッパでは政府だけでなく、企業もSDGsの取り組みを加速させています。しかも、その動きは中小企業にも及んでいます。

ヨーロッパの中小企業が進めるSDGsビジネス

ヨーロッパの国々の具体的なSDGs戦略について調査しているのが、独立行政法人日本貿易振興機構(以下、ジェトロ)です。前述のドイツなど各国の動きや、ヨーロッパ全体のSDGsの実践について、日本国内の企業向けに報告。2019年3月に発表された「欧州のSDGs実践に関する調査」では17の目標それぞれに取り組む企業を、大企業だけでなく中小企業についても多数掲載しています。

例えば、ノルウェーのソーラー製品開発企業のBRIGHT Productsは、送電網のない地域や電力事情の悪い地域に住む人や、送電網にあまり頼らない暮らしをする人々のために、多機能で省エネ型のソーラーランプやソーラーランタンなどを提供しています。

図表:欧州のSDGs実践に関する調査 2019年3月日本貿易振興機構(ジェトロ)貿易制度課・ブリュッセル事務所より引用

こうした製品は、暗い夕暮れや夜間に光をもたらし、アフリカの国々の暮らしを変えました。夜でも、子どもたちは宿題ができるようになり、安全のために足元を照らすこともできるようになりました。携帯電話などの小さな電子機器の充電もできるので、企業活動にも役立ちます。太陽光というクリーンなエネルギーを活用することで、灯油などの燃料の削減にもつながりました。

この企業がSDGsの17の目標で果たしている役割は、目標7の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に加えて、目標1「貧困をなくそう」、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標8「働きがいも経済成長も」にも広がっています。BRIGHT Productsは創業からわずか4年で200万個を超えるランプを販売して、800万人を超える人々の日常の問題を解決しました。

また、オランダに本社を置き、スペインに工場があるデニムブランドのマッド・ジーンズは、月々7.50ユーロという格安の金額で消費者に自社製の衣服を貸し出すサービスを、2013年に開始しました。リース期間は1年間で、終了後は他のジーンズと交換してリースを続けるか、返却する、もしくは保有することもできます。

図表:同上

マッド・ジーンズは開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入していることから、生産者や労働者の生活改善と自立を目指すフェアトレード認証を受けています。消費者は罪悪感のない買い物をしながら環境に優しい行いをして、同時にファッショナブルでモダンな格好を楽しんでいるのです。

リース後に返却されたジーンズは、工場でリサイクルし、新しいジーンズやセーターに再利用されます。将来的にはリサイクルした繊維を100%使用したジーンズの製造も目指しています。SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」を大きな柱にしながら販売する店舗を世界に拡大。目標8の「働きがいも経済成長も」、目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標13の「気候変動に具体的な対策を」などにも寄与しています。

このほか、「欧州のSDGs実践に関する調査」では、NGOを支援する金融サービス、農業への支援、教育、環境保全など、さまざまなジャンルでSDGsに取り組む中小企業や、ヨーロッパのSDGsビジネスを代表する大企業の取り組みが多数紹介されています。先進的なアイデアに触れることで、自社のビジネスでの取り組みを考えるきっかけになるのではないでしょうか。

なぜ中小企業にとってSDGsが重要なのか

前回お伝えした「SDGsはこれからのビジネスのヒント」では、日本立地センターと経済産業省関東経済産業局の調査で、中小企業でSDGsを実践している企業が2020年の段階でわずか3.4%しかないことをお伝えしました。

一方で、日本の大企業では、SDGsに取り組む企業が急速に増えています。その背景には、企業が長期的に成長するために、環境問題(Environment)、社会問題(Social)、組織統治問題(Governance)に取り組むことが重要との見方が広がっている点があります。この3つがESG問題と言われているもので、SDGsの目標である持続可能な世界の実現と、ビジネスと社会の両面で密接に関わっています。

さらにマーケットでは、ESGに積極的に取り組む企業に投資するESG投資が大幅に拡大しています。大企業が投資家からESG問題への取り組みをチェックされるということは、大企業と取引をする中小企業にも、ESGの取り組みが求められることになります。

実際に多くの大企業が取引先を選定する際、価格や機能だけでなく、企業の社会的責任であるCSRの状況も評価に含める「CSR調達」を取り入れ始めています。これらの企業のサプライチェーンに中小企業が加わるには、SDGsの目標実現に取り組み、CSR報告を実践する必要が出てきました。

ヨーロッパでSDGsを実践する企業が示しているように、SDGsの普及は新たな市場を急速に作りつつあります。SDGsの認知が広がることで、消費者の価値観にも確実に変化が生まれています。SDGsに取り組まない企業は、取引先からも、消費者からも今後選ばれなくなる可能性があるのです。

実のあるSDGsの取り組みにするために

企業が比較的取り組みやすいSDGsの目標には、「つくる責任つかう責任」(目標12)、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)などがあります。ただ、社会貢献をするためだけにコストをかけるのでは、持続可能な経営にはつながりません。

ヨーロッパの中小企業も、複数の目標を取り入れながら、ビジネスを成長させています。まずは、SDGsの各目標が自社のビジネスとどのような関係があるのかを把握し、実践できている目標と、できていない目標を整理してみてはいかがでしょうか。そこから自社の経営課題が見えてきて、どのようなビジネスに取り組めばいいのかを考えることができます。

他社が取り組んでいるからと言って、同じことを取り入れる必要はありません。自社が強みとする技術や、抱えている経営課題から、自社に適したSDGsの取り組み方があるはずです。

SDGsをビジネスに取り入れる際に、グローバルな視点で検討する場合には、ジェトロが提供する情報が活用できます。ジェトロでは中小企業のために、SDGsをわかりやすく解説しようと、インターネット上の国際ビジネス情報番組「世界は今ーJETRO Global Eye」で、SDGsをテーマにしたコンテンツを発信しています。

また、2021年7月から10月までは、会員向けに「ジェトロ・アジア経済研究所」研究員によるSDGs講座をオンラインで開催しているほか、貿易相談窓口で企業からの相談を受け付けています。

SDGに取り組むことは、大企業と取引ができなくなるリスクの予防と、新たなビジネスチャンスを掴むことの両方につながると言えます。そして、世界を舞台に広がるSDGsビジネスは、ヨーロッパに限らず、途上国の成長においても重要な要素になりつつあります。次回は国際協力機構(JICA)が途上国で展開している「中小企業・SDGsビジネス支援事業」についてお伝えします。

幅広く事業展開を目指す企業の方は、
ぜひジェグテックをご活用ください。

  1. TOP
  2. ジェグテックジャーナル
  3. 国内・海外市場動向
  4. ヨーロッパの中小企業が取り組むSDGsビジネス