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国内・海外市場動向
世界のエネルギーをめぐる状況と日本の現状

エネルギー価格の上昇に中小企業はどう対応するか(1)

エネルギー価格の高騰は世界中で大きな課題になっています。

新型コロナウイルス感染症からの経済回復で各国の需要が回復し、化石燃料の価格が上昇。
さらに2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、価格上昇は加速しています。
日本国内では円安もあり、ガソリン価格の上昇や、電気・ガス料金の大幅値上がり、
原材料価格の高騰などが企業活動に影響を与えています。

エネルギー価格高騰の現状と、今できる対応策について考えてみます。

ロシアのウクライナ侵攻で加速した価格高騰

世界的なエネルギー価格の高騰は2021年から始まっていました。資源エネルギー庁が2022年6月に発表した「エネルギー白書2022」によると、2015年以降は原油価格の下落で化石燃料への投資が撤退し、脱炭素を目指す流れも高まって供給力不足の状態でした。

それが新型コロナウイルス感染症からの経済回復によって、2021年から各国の需要が増大します。その際に悪天候や災害が重なって、風力などの再生可能エネルギーが期待通りに動かず、世界のガス火力依存度が高まる結果となりました。

特にヨーロッパの国々が買い求めたことにより、天然ガスや原油、石炭の価格が急上昇します。さらに2022年2月24日からのロシアのウクライナ侵攻により、原油先物価格やヨーロッパの天然ガス価格は一時異常な事態と言えるほどに高騰しました。石油とガスの生産で世界2位を誇るロシアと、ヨーロッパ各国との間でのエネルギー制裁の応酬もあり、エネルギー価格が安定する見通しは立っていません。

日本経済もエネルギー価格高騰の影響を大きく受けています。政府はガソリン価格の値上がりを受けて、2022年1月から燃料油価格の激変緩和事業を実施。レギュラーガソリンの全国平均が170円以上になった場合、1リットルあたり5円を上限として、燃料油元売りに補助金を支給しています。しかし、影響はガソリンだけにとどまりまらず、電気料金やガス料金の高騰など企業活動に影響を及ぼしています。

電気料金の高騰と「電力難民」

国内の電気料金は、2021年後半から値上がりを続けています。家庭用の電気料金でみると、大手電力会社10社の2022年7月の料金は過去5年間で最も高い水準となりました。前年の同時期と比べると、おおむね2割から3割上昇しています。小売業や飲食業などをはじめとする利益幅が決して大きくない業種にとっては、経営に大きな影響を及ぼす状況となっています。

加えて、いわゆる「電力難民」の問題も浮上しました。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、日本卸電力取引所における卸電力価格の上昇が加速。新電力会社には自前の発電所を持たず、電力の購入を卸電力に依存しているところも多く、企業に供給する価格を上げても赤字になる状況に陥りました。

このため、新電力の事業撤退や倒産が相次いでいます。信用調査会社の帝国データバンクは2022年6月、2021年4月時点で国に登録されていた新電力会社706社のうち、1割強にあたる104社が6月8日までに倒産や廃業、電力事業の契約停止や撤退をしたと、調査の結果を明らかにしました。3月末の発表では31社だったことから、わずか2か月で3倍に急増したことになります。

この影響により、新電力から電力を購入していた企業が「電力難民」となるケースが多発しています。電力小売業者の倒産や撤退などで企業が電力の契約を打ち切られた場合、新規での契約を断られるケースが相次いでいるのです。

こうした「電力難民」の企業にも電気を供給するため、大手電力会社グループの送配電会社は最終保障供給と呼ぶセーフティネットを用意しています。経済産業省によると、最終保障供給の契約件数は、3月に5477件、4月に5133件だったのが、5月には1万3045件に急増しました。

電気料金の高騰は続いていて、たとえ「電力難民」にならなかったとしても、大量の電力を消費する業種の中小企業にとっては深刻な状況になっています。

また、大幅な円安も企業にとっては不安要因です。2022年6月13日の外国為替市場では、円相場が一時1ドル135円台前半まで下落しました。この相場は、金融危機だった1998年以来の水準で、実に24年振りの円安となっています。

この円安によって、発電の燃料となる液化天然ガスや石炭などの輸入価格は今後も上昇の一途をたどることが予想されます。電気やガスの料金がどこまで上昇するのか、現時点では見通せなくなっています。

省エネルギーの取り組みとデマンドレスポンス

国内では夏や冬など大量の電力が必要な時期に、電力が安定供給できるかどうかも課題です。2022年夏の電力需給は、10年に1度の厳しい暑さを想定した場合、東京電力、中部電力、東北電力の管内で、安定供給に必要な予備率がわずかしかない見通しが示されました。

この状況を受けて政府は2022年6月、夏の電力需給のひっ迫に備えるため、全国の大手電力会社10社すべての管内で、企業や家庭に対して節電要請を行うことを決定しています。政府の「省エネルギー・省資源推進会議」の省庁連絡会議は、「エネルギーの安定供給を巡る課題は複雑化・深刻化しており、更なる省エネの取り組みは急務」で、地球温暖化の解決に向けて「国内外のエネルギー消費効率の改善を一層促進することも必要」と、国民と産業界に対して省エネルギーの取り組みを訴えています。

このうち、産業界に対しては、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)に基づいて、適切なエネルギー管理を実施することや、エネルギー消費効率の高い機器の購入などを求めました。工場や事業所については、省エネルギーの目標を定めるとともに、電気の需給状況が厳しい時間帯から再生可能エネルギーの余剰電力が発生している時間へ、電気需要のシフトを心がけることが必要と指摘しています。

電気需要を削減するための方策として注目されているのが、デマンドレスポンスの取り組みです。これは電力会社の要請に応じて、需要側である企業などが決められた時間帯に電力の使用量を減らしたり、増やしたりすることです。目標に沿ってユーザーが使用量を削減できた場合には、収益を還元するなどのインセンティブが企業側に付与されます。

デマンドレスポンスは、一部の電力会社で実際に行われ、節電に一定の効果を発揮していることが報告されています。世界の情勢によってエネルギー価格や電力の供給が不安定さを増す中では、電力会社が情報を的確に提供し、需要側である企業が状況に応じて省エネルギーやデマンドレスポンスに取り組むことが、今の時点でできることではないでしょうか。

省エネルギーと脱炭素への動きを両立させる

エネルギー価格の高騰とは異なる背景から、再生可能エネルギーへのシフトも進められています。政府は2050年にカーボンニュートラルを目指すとして、2020年にグリーン成長戦略を策定しました。洋上風力発電の導入、次世代型太陽電池の研究開発、地熱発電開発、水素によって電池や熱をつくる燃料電池の導入拡大など、次世代に向けた投資を促そうとしています。

もちろん、2015年に国連で採択された、持続可能な社会を目指す世界共通目標のSDGsでも、地球温暖化対策やエネルギー問題は重要な問題に位置づけられています。脱炭素を実現し、持続可能な社会の主力となるエネルギーとして、再生可能エネルギーは期待されています。

企業でも、再生可能エネルギーの利用は進みつつあります。最も多いのは太陽光発電で、小水力発電やバイオマス発電に取り組む企業も出てきています。世界的なエネルギー危機に直面したことで、省エネルギーの取り組みを進めるとともに、中長期的な視野に立って再生可能エネルギーの導入を考える企業もこれから増えてくるのではないでしょうか。

企業による再生可能エネルギーの導入を後押しする政策も進められています。次回は、企業が再生可能エネルギーを導入するための支援制度についてお伝えします。

幅広く事業展開を目指す企業の方は、
ぜひジェグテックをご活用ください。

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