東南アジアのビジネスの大半を形成する零細・中小企業
ASEANの加盟国は2024年1月現在、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10か国です。ASEANでビジネスの大半を形成しているのは、零細・中小企業です。ASEANには中小企業について共通の定義はなく、各国が独自で指標を採用しています。アジア開発銀行(ADB)によりますと、東南アジア全体で7000万社を超える中小企業が存在し、活動中の企業全体の約97%を占めます。GDPの約40%を生み出すとともに、労働人口の約70%を雇用していて、大企業とは異なる事業組織として東南アジアの経済基盤となっています。
気候変動によって大きな打撃を受ける可能性
東南アジアでは大企業による温室効果ガス排出量はある程度把握されているものの、中小企業については研究が不足していると指摘されています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、東南アジアの中小企業と気候変動問題の関係については、ほとんど言及されていません。
ただ、ASEANの加盟国は、気候変動によって深刻な危険にさらされています。気候変動対策に取り組まないままでいると、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの洪水リスクの高い地域では、約8700万人が避難する可能性があり、ASEAN地域のGDPは11%減少すると試算されています。
気候変動による海面上昇や異常気象が起きた場合、大きな打撃を受けると考えられているのが中小企業です。しかし、大企業では対策が講じられているものの、中小企業の大半は十分な備えができていないことが各国の調査でわかっています。そのため、災害への備えを行うことや、二酸化炭素の排出量を削減するなど、気候変動対策に取り組むことの必要性は企業にも広く認識されつつあります。
カーボンニュートラルを目指すASEAN
気候変動のリスクに加えて、東南アジアの国々では今後も人口が増加するとともに、経済成長も見込まれていることから、何も対策をしなければ二酸化炭素の排出量が増えていくことも予想されています。そこで、ASEANでは気候変動のリスク軽減と経済成長の両立を目指そうと、カーボンニュートラルの実現に向けて動き出しました。
国別では、2050年までのカーボンニュートラルの達成を目指しているのがブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナムです。加盟国の中で最も二酸化炭素の排出量が多いインドネシアは、2060年までの達成を目標にしています。
こうしたカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みによって、ASEANでは大きな経済効果が得られると考えています。ボストンコンサルティンググループが実施した分析によると、ASEANがカーボンニュートラルを推進することで、2050年までに3兆ドルから5.3 兆ドルのGDPの付加価値が生み出されるほか、3.7兆ドルから6.7兆ドルのグリーン投資を呼び込み、地域に4900万から6600万人の追加雇用をもたらす可能性があると指摘しています。この効果を得るためには、大企業だけでなく、中小企業にも脱炭素の取り組みが求められます。
ASEANの大手企業と日本との関係は
ASEAN主要6か国と呼ばれているのが、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムです。これらの国々の生産財を扱う製造業については、発電源を化石燃料から再生可能エネルギーに転換することや、輸送における二酸化炭素の削減などが急務になっています。
ASEAN諸国の再生可能エネルギー企業大手の一つに、シンガポールのSembcorp Industries社があります。太陽光発電や風力発電などによって、大容量の再生可能エネルギー設備をグローバルで運営しているほか、水素および低炭素技術の導入を進めています。
また、マレーシアの国営石油会社のPETRONAS社は、エネルギー企業世界大手であるとともに、カーボンニュートラルを達成するための燃料、製品、ソリューションの開発などを行っています。二酸化炭素の地中貯留の適地を豊富に持つことから、2023年10月には日本国内の産業界で排出された二酸化炭素を、マレーシアに輸送して貯留する事業が検討されています。
このように、ASEANの大手企業の脱炭素の取り組みには、日本政府や日本の大企業も注目していて、協力関係を結ぶ動きが加速しています。
生産財を扱う中小企業の脱炭素の現状は
日本の生産財を扱う中小企業には、エネルギーの効率化や、省エネルギーについて高度な技術を持っている企業が少なくありません。ASEANの中小企業が抱えている課題は多く、改善の余地も大きいことから、日本の中小企業がASEANの企業の脱炭素化に寄与できる可能性は高いと言えます。
東南アジアの企業の脱炭素化やSDGsの取り組みは、今後さらに拡大することは間違いありません。特に生産財を扱う企業については、カーボンニュートラルに貢献するための投資や技術の導入が進む可能性が高くなっています。国によるさまざまな政策や法律などを理解する必要はあるものの、脱炭素化に取り組む日本の中小企業にとって、東南アジアでのビジネスは今後有力な選択肢の一つになりそうです。