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アメリカの中小企業が取り組む脱炭素・SDGsビジネスの現状(2)

消費財を扱う中小企業を取り巻く環境

アメリカでは消費財を扱う企業による脱炭素やSDGsの取り組みが加速しています。
大企業はもちろん、サプライチェーン全体で取り組みが進められることから、
中小企業にも対応が求められています。
今回は、消費財を扱うアメリカの中小企業の現状についてみていきます。

SDGs達成度ランキング2023年は39位

消費財を扱う企業で世界的に存在感を増しているのは、脱炭素をはじめとする環境問題などに取り組むSDGsに貢献する製品を作っている企業です。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の取り組みを投資の判断基準にするESG投資も拡大していて、国や企業のSDGsへの取り組みを後押ししています。

各国のSDGsの達成度については、国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が毎年ランキングを発表しています。2023年は1位が3年連続のフィンランド、2位がスウェーデン、3位がデンマークで、20位までをヨーロッパの国が占めました。日本は21位でした。

このランキングでアメリカの順位は39位でした。これは先進国の中では最も低い順位です。また、SDSNでは2023年から74か国を対象に、政治的なリーダーシップ、長期的な政策、多国間での協調姿勢の3つの観点から、SDGsに対する本気度を測る新たな調査を始めました。この本気度ランキングでアメリカは最下位でした。国連に対してSDGsの取り組み状況をまだ一度も報告していないことが、最下位の理由になっています。

アメリカの順位が低いことに関しては、2019年に当時のドナルド・トランプ大統領が、気候変動対策を推進する「パリ協定」から離脱したことも影響しています。ただ、トランプ大統領の前には、当時のバラク・オバマ大統領が「グリーン・ニューディール」を推進していたほか、2021年に就任したジョー・バイデン大統領も、巨額のグリーン投資を実施しています。独自で気候変動対策に取り組んでいる州や企業もあります。SDGs達成度ランキングは低いものの、実際には脱炭素やSDGsに寄与する経済活動は活発です。

また、SDGsの17の目標のうち、目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」に関して言えば、アメリカは女性の雇用や管理職登用については進んでいます。アメリカでは2023年3月現在、女性の中小企業経営者が全国に1200万人います。バイデン大統領は女性が経営する中小企業に対して資本提供やメンターシップの提供など、さまざまな支援策を打ち出しています。

消費財を扱うアメリカの中小企業を取り巻く環境

アメリカに本社を置く消費財を扱う企業は、大企業であるほど脱炭素化に取り組んでいます。日本の企業よりも進んでいるのは、取り組みの範囲がサプライチェーン全体に及んでいることです。

オハイオ州に本社がある世界最大の一般消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、原材料の調達から自社のオペレーション、さらにはサプライチェーンまでで排出される温室効果ガスを、2040年までに実質ゼロにする野心的な目標を2021年に設定しました。すでに2010年から2020年までの間に、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの導入によって、グローバルな事業活動における絶対的な排出量を52%削減。2030年までに再生可能な電力を100%購入する目標も掲げています。

また、物流を含めたサプライチェーンの排出量は事業活動の約10倍にのぼるとして、2030年までにサプライチェーンの排出量を40%削減することを目指しています。このため、地元のサプライヤーと共同で、脱炭素化に向けたソリューションの開発を進めています。

一方、ニューヨーク州に本社がある食品メーカー大手のペプシコは、サステナビリティ経営を多面的に進めている企業です。原材料を育てる農業、調達、気候変動や森林破壊など環境への影響に配慮したフードシステムの構築など、さまざまな取り組みを行っています。同時に、サプライヤーの多様性も重視していて、国内の黒人やヒスパニック系の経営者の企業を支援するなど、多様なサプライヤーとの関係強化も進めてきました。

こうした大企業のサプライチェーンの中で活動している、消費財を扱う中小企業も、温室効果ガス排出量の最小化や、エネルギー効率の向上といった脱炭素に取り組んでいます。また、女性や若い世代に加えて、貧困層や社会的弱者の雇用も進める必要があります。

官民で進む中小企業支援

アメリカの消費財を扱う中小企業の多くは、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大によって経営的な打撃を受けました。日本よりも少し早く、2021年の年末頃から消費は上向いてきましたが、大企業に比べて中小企業は回復が遅れていることが指摘されています。

そこで、アメリカの中小企業庁では、中小企業に特化した経済的な救済策を打ち出しました。それとは別に、2021年に成立したインフレ抑制法によって、多額のグリーン投資が政府によって進められています。

また、民間による中小企業支援の動きも多様化しています。コーヒーチェーン大手のスターバックスは、2021年10月に、アメリカ国内の雇用拡大を目指す基金の設立を発表しました。スターバックスでは中小企業や非営利団体などへの有志を手がけている金融関係の組織と提携して、顧客や一般市民から集めた寄附金を元手にして、中小企業向けの融資を行って、中小企業が雇用を後押しすることを目指しています。

アメリカでは民間雇用の過半数を中小企業が占めていることから、中小企業への支援は官民ともに重要なテーマとなっています。日本の中小企業がアメリカへの展開を考える場合は、消費財を扱う企業にとっても、現地の雇用に貢献できるのかどうかが大きなポイントと言えそうです。

アメリカにおいても脱炭素やSDGsの取り組みは必須

ここまで見てきたように、SDGs達成度ランキングでアメリカは先進国の中で順位が低いものの、企業活動においては脱炭素やSDGsへの取り組みが重要視されていることが分かります。しかも、その取り組みは中小企業にも求められています。

SDGsを重視したビジネスやエシカル消費への関心は、ヨーロッパで特に高まっているものの、アメリカ、さらにはアジアでも高まりつつあります。特に消費財の場合は、今後グローバルでビジネスを進める上では、SDGsとエシカルを意識したビジネスを展開することが避けられない状況です。

エシカル消費は、環境や社会、地域に配慮された消費のことです。エシカルであることは、その企業の付加価値と見なされます。アメリカにビジネスを展開する際には、自社にとってのエシカルとは何かを精査し、しっかりと伝えていくことが有効と言えます。

また、エシカルであることやSDGsに貢献する製品であることを証明するために、原材料や素材、容器などについて第三者認証を取得することも、今後アメリカに展開する上では重要です。

アメリカでは国として強制力のある認証制度などは制定されていないため、認証の取得は任意ですが、州や地方自治体によっては個別に第三者認証の取得を求めているケースもあります。また、アメリカで認証を取得すると、カナダでも同様に認証を表示できる場合もあります。

いずれにしても、日本国内で脱炭素やSDGsに寄与する消費財を扱っている中小企業であれば、今後アメリカにもビジネスチャンスはあると言えます。また、サプライチェーンの一部として参画する場合には、脱炭素やSDGsに対して厳格な取り組みが求められることが予想されます。ビジネスを展開したい業種、州や自治体の規制、必要な認証などについて、事前に十分な調査が必要です。

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