脱炭素やSDGsの取り組みをリードするヨーロッパ
ヨーロッパは気候変動対策に積極的に取り組みながら、経済発展も実現している先進的な地域です。欧州連合(以下、EU)における取り組みが、その現状をわかりやすく示しています。EUには2024年1月現在27か国が加盟。2022年時点での総人口は4億4796万人で、日本の約3.6倍、アメリカの約1.3倍です。世界のGDPの約17%を占める規模を誇っています。
EUと日本は経済連携協定(EPA)を締結し、2019年2月に発効されました。この協定によって、EUと日本をあわせて人口約6億人、世界のGDPの3分の1近くを占める規模の自由貿易圏が構築されたことになります。日本との貿易総額は中国、アメリカに次いで3番目に多く、対外直接投資額もアメリカの次に多くなっていて、EUは日本の主要な貿易相手であると同時に、重要な投資相手でもあります。
世界では脱炭素などの気候変動対策やSDGsの目標達成に向けた取り組みを、経済成長の重荷と考える国も少なくないなか、EUは気候変動対策と経済成長を両立できると考え、その実績を残しています。EUの加盟国は温室効果ガスの排出量を1990年に比べてすでに32.4%削減する一方、同じ時期に67%の経済成長を実現しました。その実績もまだ道半ばとして、2030年までには55%以上の排出量削減を目指すなど、野心的な目標を掲げています。
この目標を達成するための経済政策や、排出量の大きな部分を占める企業への規制が次々と導入されているのも、EU加盟国をはじめとするヨーロッパの国々の特徴です。2019年12月に発表された「欧州グリーンディール」では温室効果ガス排出量削減の目標を達成するための規則や法律を整備するとともに、10年間で官民あわせて1兆ユーロの投資が行われています。を2023年2月には「グリーンディール産業計画」を打ち出して、温室効果ガス排出量の実質ゼロに取り組む企業への支援も進めているのが現状です。
その中で、一般の人々によって日常的に消費される商品である消費財についても、さまざまな法整備が矢継ぎ早に導入されています。消費財を扱う日本の中小企業がこれからヨーロッパに展開する場合には、こうした法律や規制を踏まえた上での対応が欠かせません。
ヨーロッパの消費財とSDGs・エシカルの法整備
ヨーロッパで関心が高まっているのが、持続可能な開発目標のSDGsを重視したビジネスやエシカル消費です。エシカル消費は環境、社会、地域などに配慮した消費行動のことを指します。SDGsの17の目標の中では、目標12の「つくる責任 つかう責任」に関連します。
環境に配慮された消費とは、環境負荷ができるだけ小さい製品を、環境負荷の低減に務める事業者から優先して購入することや、自然エネルギーを消費することを指します。社会に配慮された消費は、低賃金の強制労働や児童労働で作られていない製品や、売り上げの一部を環境保護などの寄付に充てる製品を購入すること。地域に配慮された消費は、地元で生産されたものを地元で消費することです。エシカル消費はヨーロッパの消費者に支持され、オーガニックコットンや天然の染料を使用した衣料や、環境に配慮したエシカルフードなど、幅広い分野に広がっています。
また、EUでは持続可能な製品を当たり前にする規制も導入されています。EUの主要機関である欧州議会は、2023年6月に環境配慮設計規制の改正案を採択し、製品の修理やリサイクルなどを容易にすることで製品の寿命の長期化を図ることや、売れ残った繊維製品や電化製品の廃棄を禁止することを決めました。この規制は衣料品や靴、鉄鋼、家具、タイヤ、化学製品に優先的に適用されるほか、食品や医薬品などをのぞくほとんどの製品に適用されます。
こうした消費行動や法規制によって、ヨーロッパのほとんどの中小企業にとっても、脱炭素やSDGsに関する取り組みを進めることが重要になっています。イギリス・バーミンガムにある公立研究大学のアストン大学で2022年に発表された研究(注1)によると、イギリスでは政府が中小企業の持続可能な取り組みを積極的に支援しているほか、デンマークでは環境や社会に貢献する取り組みを、中小企業が自ら積極的に進めていることが指摘されました。またオーストリアの中小企業の生産性はEU加盟国の平均を大きく上回っているほか、環境や持続可能な分野での取り組みも先進的であることが報告されています。
ヨーロッパでSDGsやエシカルに貢献する製品を製造・販売している中小企業の多くは、第三者機関による認証を取得しています。ISO9001 、ISO14001といった標準認証をはじめ、適切に管理された森の生産品であることを証明するFSC認証など、認証を取得することが一般的です。認証マークは商品の前面に掲載されるケースが多くなっています。
SDGsランキングで順位を上げたフランスの取り組みとは
国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」によって、SDGsの目標達成度ランキングが毎年発表されています。2023年は1位がフィンランド、2位がスウェーデン、3位がデンマークで、フィンランドが3年連続で1位となりました。1位から20位までをヨーロッパの国が占め、日本は21位でした。
このランキングで、ヨーロッパの中でも順位を上げてきたのがフランスです。2017年のランキングでは、11位だった日本の一つ上の10位でした。それが、翌2018年は5位、2019年と2020年は4位まで順位を上げました。2023年のランキングでは6位でした。
積極的な取り組みを進める上位の国々の中にあって、さらに順位を上げることができたのは、不平等をなくすことやジェンダー平等の取り組みとともに、気候変動に対して踏み込んだ政策に要因があります。フランスは2030年までに二酸化炭素の排出量を1990年に比べて40%削減するといった高い目標を設定。2014年から炭素税を導入して、税率を段階的に引き上げています。
また、使い捨てプラスチックの規制も他の国より厳しいものとなっています。2016年からプラスチック製のレジ袋の使用を禁止すると、2021年からが野菜や果物のプラスチック包装が禁止され、スーパーマーケットなどでは量り売りが行われるようになりました。
また、使い捨てのプラスチック製品については、2020年からはカップやグラス、2021年からはストローやカトラリー、2022年からはティーバッグやファーストフード店のおもちゃなどで使用が禁止されています。他にも、2025年までに海洋プラスチックごみをゼロにすることや、2040年までにすべての使い捨てプラスチックを段階的に廃止することなどが決まりました。こうした規制にフランスでは大企業、中小企業がともに対応して、製品の製造や販売を行っています。
フランスによる取り組みは、ヨーロッパの他の国々にも広がりつつあります。日本では脱プラスチックは進んでいるとは言えない状況ですが、消費財でヨーロッパへの進出を考える場合には、脱プラスチックの取り組みは必須となっています。
ヨーロッパでビジネスチャンスを掴むには
ここまで見てきたように、ヨーロッパの市場では脱炭素やSDGsに寄与する製品が主流になりつつあり、その流れが今後も加速することが予想されます。しかも、これらの製品はアジアなど他の地域でも関心が高まっていることから、EU加盟国をはじめとするヨーロッパの市場に進出することは、世界にビジネスを広げていく上でも大きな意義があります。自社における脱炭素化や、SDGsビジネスを進めている中小企業であれば、十分にチャンスがあると言えるでしょう。
また、EUでは消費者向け製品について、気候変動対策に取り組んでいるように見せかける「グリーンウォッシュ」に対する規制も進められています。根拠が正確なものであると証明できない限り、温室効果ガスの排出実質ゼロや、エコなどの謳い文句を企業が使うことができません。このため、ヨーロッパに消費財の自社製品を展開するには、認証を取得することが必須となっています。
もちろん、ヨーロッパの中でも、各国によって進められている政策には違いもあります。SDGsに関係する産業政策や法規制の情報を入手した上で、現地企業とのパートナーシップや自社製品の展開を模索してみてはいかがでしょうか。
注1:「Sustainability Practices and Performance in European Small-and-Medium Enterprises: Insights from Multiple Case Studies」(Operations & Information Management Aston Research Centre for Health in Ageing Centre for Circular Economy and Advanced Sustainability (CEAS) Aston India Centre for Applied Research Aston Business School)