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ヨーロッパの中小企業が取り組む脱炭素・SDGsビジネスの現状は(1)

生産財をめぐるヨーロッパの産業政策

脱炭素の取り組みや持続可能な開発目標のSDGsに沿ったビジネスを展開する企業が、世界的に増加しています。
日本では大企業が中心となって取り組んでいるものの、世界では中小企業が積極的に進めているエリアもあります。

その1つがヨーロッパです。
ヨーロッパでビジネスを展開しようと考えている中小企業にとっては、脱炭素やSDGsを踏まえることが不可欠となっています。
今回はヨーロッパの中小企業の現状について、生産財を扱う企業を中心に考えてみます。

ヨーロッパで進む脱炭素・SDGsの取り組み

欧州連合(以下、EU)の欧州委員会の年次報告書によると、2022年の時点でEUに加盟する27か国では、2400万社以上の中小企業が活動しています。中小企業の定義は従業員数が250人未満で、年間売上高が5000万ユーロ未満または貸借対照表の合計が4300万ユーロ未満の企業です。これらの中小企業が非金融事業部門の全企業のうち、99.8%を占めています。そのため、中小企業が環境に与える影響とその対策については、以前から議論されてきました。

企業が脱炭素に取り組む流れは、2015年以降に加速します。この年、フランス・パリで第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)が開催され、2020年以降の温室効果ガス排出削減のための新たな国際枠組みであるパリ協定が採択されました。「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度よりも十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること」が掲げられています。

特にEUは、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年に比べて40%削減する目標を掲げ、その後に目標を引き上げて、現在では55%削減する意欲的な目標を打ち出しています。実際に32.4%の削減を実現するなど、実績でも他の地域をリードしています。

また、2015年に開催された国連サミットでは、持続的な開発目標のSDGs(Sustainable Development Goals)が加盟国の全会一致で採択されました。これは2015年から2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、貧困、飢餓、エネルギー、気候変動などの問題を解決するための17の目標と169のターゲットが設定されています。

国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が毎年発表しているSDGsの達成度ランキングでは、毎年ヨーロッパの国々が上位を占めていて、2023年は1位から20位までを独占しました。日本の順位は21位でした。

ヨーロッパの国々が温室効果ガスの削減や、SDGsの目標達成に向けた取り組みに成果を上げているのは、大企業、中小企業の取り組みに加えて、一般の人々の意識の高さもあります。ヨーロッパの企業活動において、脱炭素やSDGsの取り組みはすでに欠かせないものになっています。

EUや各国による規制と生産財企業への影響

企業の取り組みが進んでいる背景には、EUや各国政府による政策や法規制もあります。1つは炭素税です。1990年にはフィンランドで世界初の炭素税が導入されたほか、翌1991年にはスウェーデン が二酸化炭素税を導入されたことで、各国に広がりました。

EUではSDGsを域内の政策に反映させています。その中でも最優先の政策が、2019年12月に発表された「欧州グリーンディール」です。経済、生産活動、消費活動を地球と調和させて、人々のために機能させることを目的に、温室効果ガスの排出量削減や雇用とイノベーションの促進を目指すものです。10年間で官民あわせて1兆ユーロの投資が進められています。

「欧州グリーンディール」柱の1つが、持続可能な産業の実現です。生産財を扱う産業に対してはグリーン転換を支援する政策がとられていて、EU域内の産業を現代化するために必要な支援の提供を行っています。鉄鋼やセメントなどエネルギー集約産業の脱炭素化と現代化は不可欠として、2030年までに鉄鋼業の炭素排出量をゼロにするための支援に乗り出しています。

クリーンエネルギーへの転換も重要な柱です。EUでは2023年10月、2030年時点での最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率を、現行の32%から42.5%に引き上げることを決めました。産業部門では、使用する水素に占める非バイオ再生可能エネルギー由来水素の比率を、2030年に42%、2035年に65%にする目標も定められました。再生可能エネルギー源の電力網への接続と統合、それにエネルギーシステムの相互接続やデジタル化も進められています。

また、建物については、エネルギー効率の高い建物への改修が奨励されています。建物の建築、使用、改修には、砂や砂利、セメントなどの資源とともに、大量のエネルギーが必要になります。資源とエネルギーの消費をできるだけ抑えるため、建物のエネルギー性能の向上や、循環経済に適した建物の設計などが促進されているのが現状です。

ヨーロッパの中小企業による脱炭素やSDGsの取り組み

これらの支援策は、生産財を扱う大企業をはじめ、中小企業にも効果をもたらしています。EU加盟国の世論調査「ユーロバロメーター」2022年版の中小企業に関する調査では、EUの中小企業の89%が再生可能エネルギーの使用、リサイクル、廃棄物の最小化など、資源効率を高めるための措置を少なくとも1つは実施していることがわかりました。また、自社の事業の二酸化炭素排出量を削減するための具体的な計画を、「すでに策定した」と答えた中小企業の割合は24%となっています。

この調査で、自社の資源効率を高めるためにどの支援策が役に立っているのかを質問したところ、助成金や補助金による財政的支援を挙げた中小企業が最も多い36%。次いで、セクターを超えた企業間の協力の強化と答えた中小企業が26%でした。「ユーロバロメーター」の2018年版と比較すると、EU域内の中小企業は持続可能性をゆっくりと改善しているとみられています。

ただ、大企業に比べると、ヨーロッパの中小企業は持続可能性に関してやるべきことがまだまだ多いと指摘する調査もあります。ボストン・コンサルティング・グループと、アルゴス・ウィチュ社が実施した調査では、ヨーロッパの中小企業で体系的な脱炭素計画を始めていると答えたのはわずか11%でした。

一方、ボストン・コンサルティング・グループの調査では、中小企業の84%が温室効果ガス排出量の削減が重要と考えているほか、71%が気候変動をチャンスと捉えています。脱炭素やSDGsの取り組みは課題ではあるものの、中小企業にとっても大きなビジネスチャンスの可能性があると考えられています。

日本の中小企業が参入するために必要なことは

ヨーロッパの中小企業は新型コロナウイルスの大流行以降、経営の不確実性が高まっています。2021年からのエネルギー価格の高騰に加えて、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、中小企業の成長を脅かす要因です。

この状況下で、エネルギー価格高騰への対策や安定供給に向けた取り組みの重要性が再認識されたことで、新たな産業政策が次々と打ち出されています。2023年2月には「グリーンディール産業計画」が新たに発表され、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするネットゼロ産業を支援する方針が示されました。世界のネットゼロ産業の市場規模は、2030年までに現在の3倍に拡大する見通しであることから、EUでは域内のネットゼロ産業の成長を後押する方針です。

このように、脱炭素やSDGsに貢献するビジネスは、先進的な取り組みが進んでいるヨーロッパにおいても、まだまだ拡大していくと考えられます。脱炭素化、エネルギーや資源の利用の効率化、リサイクルなどによる廃棄物の削減といった分野では、今後も革新的な技術がヨーロッパでも求められていくのではないでしょうか。

ヨーロッパの中小企業は前述の通り2400万社以上あり、約1億人が雇用され、ヨーロッパのGDPの半分以上を占めています。生産財を扱う日本の中小企業がヨーロッパへの参入を検討している場合、現地の中小企業とパートナーシップを組むことも方法の一つです。あわせて、脱炭素とSDGsで世界の先頭をいくEUや各国政府が、どのような産業政策を打ち出していくのかについては、今後も注目していく必要がありそうです。

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