SDGsに貢献することによる経済効果は
持続的な開発目標のSDGs(Sustainable Development Goals)は、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことを指します。2015年に開催された国連サミットで、17の目標と169のターゲットで構成された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択されました。
17の目標には世界が直面する課題が網羅的に示されています。社会面では、貧困や飢饉、教育についての問題の解決。経済面ではエネルギーや資源の有効活用、働き方の改善、不平等の解消、持続的な経済成長を目指すこと。環境面では地球環境や気候変動など地球規模で取り組むべきことが挙げられました。17の目標を統合的に解決しながら、持続可能なよりよい未来を築くことを目標にしています。
SDGsの目標達成による経済効果については、様々な機関によって試算が行なわれています。国連開発計画は、2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会が生まれ、全世界で約3億8000万人の雇用が創出されると試算しました。社会課題の解決だけでなく、経済成長のためのイノベーションを起こすことができると捉えています。
このため、SDGsは企業の経済活動に大きな影響を及ぼしました。その一つがESG投資の拡大です。ESG投資は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字から作られた略語で、企業の各分野における取り組みを、投資の判断基準にするものです。
また、各国政府が自国の経済政策にSDGsを関連付ける動きも活発化しています。顕著なのがヨーロッパの国々です。欧州連合(以下、EU)や各国単位で、SDGsに関係する新たな政策が次々と打ち出されています。
企業の取り組みも、ヨーロッパの企業が牽引しています。カナダの調査会社「コーポレート・ナイツ」は「世界で最も持続可能な100社」を毎年選出していて、2023年のランキングではヨーロッパの企業が地域別でトップの44社を占めました。次いで多いのが北米の31社で、アジア・太平洋は日本の4社を含む22社でした。今後グローバルでビジネスを展開するためには、企業もSDGsに貢献していくことが不可欠となっています。
エシカル消費をビジネスチャンスにする
SDGsへの意識が高まっていることで、世界的に注目を集めているのがエシカル消費です。エシカル消費は人、社会、地域、環境に配慮した消費行動のことで、SDGsの17の目標のうち、目標12の「つくる責任 つかう責任」に関連する取り組みに位置付けられます。
エシカル消費は大きく3つに分類できます。1つ目が環境に配慮された消費です。環境負荷ができるだけ小さい製品を、環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入することや、自然エネルギーを消費することなどを指します。
2つ目が社会に配慮された消費です。社会的な地位が低い人に対する低賃金の強制労働や、児童労働で作られていない製品、または障害のある人が作った製品を選ぶことなどが該当します。開発途上国で作られた原料や製品を、適正な価格で継続的に購入するフェアトレード製品や、売上の一部を環境保護や社会貢献活動などの寄付に当てる製品を購入することも含まれます。
3つ目は地域に配慮された消費です。地元で生産されたものを地元で消費する地産地消が代表的なもので、その地域から産出される素材をもとに、伝統的な技法を用いて作られた製品を購入することなどもあてはまります。
SDGsの意識が高まるなかで、エシカルであることはその企業の付加価値と見なされるようになってきました。自社にとってのエシカルは何かを整理した上で、事業として進めることが、新たなビジネスチャンスを生むことにつながりつつあります。
ヨーロッパのビジネスではSDGsやエシカルは当然
SDGsを重視したビジネスやエシカル消費への関心は、日本でも高まりつつあります。ただ、社会問題の解決に貢献できる商品を購入し、そうではない商品を購入しないといった消費行動までは、日本では浸透しているとは言えません。
一方で、海外に目を向けると、特にヨーロッパの国々ではSDGsに配慮した製品の購入や、エシカル消費が当たり前の状況が生まれています。オーガニックコットンや天然の染料を使用した衣料や、環境に配慮したエシカルフードなど、エシカル消費は幅広い分野に広がりました。
こうした消費を推進する仕組みが、第三者機関からの認証です。第三者機関の認証を受けることで、顧客が製品をエシカルであると認識できます。食品であれば海のエコラベルのMSCや、フェアトレード認証など、さまざまな認証を受けた製品がヨーロッパで多く流通しています。
日本国内でも、エコマークやオーガニックコットンマーク、森林認証のFSCなどの認証マークが使用されています。ただ、日本では認証マークが商品の裏面や底に表示されていることが一般的です。海外では信頼度を高めようと、商品の前面に掲載されているケースが多くなっています。
世界で注目されている認証の一つに、B Corp認証があります。社会や公益のための事業を行っている企業に発行される、国際的な民間認証制度のことです。世界で7000社以上が認証を取得していて、国内でも現在までに31社が取得しました。ハードルの高い認証であることから、取得することによって高い信頼を得ることができます。こうした認証を取得することで、ヨーロッパをはじめとする海外ビジネスで優位に立つことが可能になります。
ヨーロッパで進むSDGsやエシカルをめぐる法整備
一方で、ヨーロッパでのビジネスを検討する際に、気をつけなければならない点があります。それは、SDGsやエシカルをめぐる法整備が進み、企業に対する規制が相次いで打ち出されていることです。
EUでは、サステナブルな製品を当たり前にする新しい規制が導入されました。EUの主要機関である欧州議会は、2023年6月15日に製品の環境配慮設計規制の改正案を採択。製品の修理やリサイクル、アップグレードを容易にすることで製品寿命の長期化を図るほか、売れ残った繊維製品や電化製品の廃棄を禁止することが盛り込まれました。
この新規制は衣料品や靴、鉄鋼、家具、タイヤ、化学製品に優先的に適用されるほか、食品、飼料、医薬品などをのぞくEU域内市場のほぼすべての製品に適用されます。
また9月には「グリーンウォッシュ」規制法案が欧州議会に提出されました。「グリーンウォッシュ」は消費者向け製品について、気候変動対策に取り組んでいるように見せかけることです。
この法案では、2026年までに根拠が正確なものであると証明できない限り、温暖化ガスの排出実質ゼロを指す気候中立や、エコなどの商品宣伝のうたい文句を企業が使うことを禁止することが盛り込まれました。優れた環境性能を示すためには、認証を取得することが必須条件となっています。
日本企業にとって注意が特に必要なのは、カーボンオフセットへの対応です。企業が環境事業に資金を拠出し、対価にクレジットを受け取ることによって、自社の温暖化ガス排出量を相殺するカーボンオフセットに基づく主張も、EUでは規制の対象になっています。日本では東京証券取引所に2023年10月からカーボン・クレジット市場が開設され、市場取引が始まったばかりですが、日本とEUでは対応が異なっています。
また、ヨーロッパ各国では、プラスチック廃棄物の削減も進んでいます。先進的な取り組みを行っているフランスでは、2016年からレジ袋、2020年からコップやグラス、皿など、2021年からはストローやカトラリー、2022年からはティーバッグなどで使い捨てプラスチックの使用を禁止しました。こうした取り組みが他の国にも広がりつつあることも、知っておく必要があります。
アジアに広がる循環経済の政策
SDGsやエシカルについての取り組みは、先進的なヨーロッパだけでなくアジアでも進んでいます。特にアジアでは、資源の効率的で循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を目指す循環経済への移行を進める動きが活発です。
中国は「中華人民共和国循環経済促進法」を2008年に制定しました。この法律は、循環経済の法制化としては世界初の事例とみられています。
台湾では資源が限られていることから、90年代以降リサイクルの取り組みが進められています。2002年には天然資源の保全や廃棄物の削減、リユースとリサイクルの促進などを目的とする「資源回収再利用法」が制定されたほか、2016年には循環経済への移行が宣言されました。
東南アジアでもベトナム、インドネシア、タイの3か国が中心となって、循環経済の政策を進める動きが出ているほか、ラオスは再生可能エネルギーの活用と循環経済の政策によって、2040年までのカーボンニュートラルを目指しています。
このように、ヨーロッパのみならず、東南アジアなど広い地域でSDGsやエシカルを軸にした新たな経済システムの構築が進んでいます。海外ビジネスを検討する際には、進出を考えている国の状況や抱えている課題を知り、SDGsやエシカルの観点で開発した製品やサービスを提供することで、新たなビジネスチャンスをつかむことが可能になります。SDGsとエシカルは、すでに世界のビジネスにおいて欠かせないキーワードとなっています。