「スタートアップ育成5か年計画」は支援期間の延長を
国によるスタートアップや中小企業の支援策は、2022年以降次々と打ち出されています。そのうちの一つが、2022年11月に決定されたスタートアップ育成5か年計画です。これは約8000億円規模だったスタートアップへの投資額を、5年後の2027年に10兆円規模にすることを目標にしています。
そのための政策として、スタートアップが活用できるさまざまな補助金が用意されているほか、人材の育成支援、出資者の非課税枠を拡大するエンジェル税制の拡充など、幅広い支援メニューが用意されています。
「2024年に大型上場で話題になった、スキマバイトサービスを展開するタイミーでも、2017年の創業から東京証券取引所グロース市場への上場まで、7年かかりました。スタートアップの成長につなげていくためには、もう少し支援する期間を延長した方がいいと個人的には思います。あわせて、支援をするVC側を教育していくことも、喫緊の課題だと感じています」
海外輸出の成功には「海外で売れるもの」を作ること
2022年11月に始まったのが、新規輸出1万者支援プログラムです。このプログラムは経済産業省や中小企業庁、中小機構、ジェトロなどが一体となって、実施しているものです。
具体的には、新たに輸出に挑戦する事業者の掘り起こしや、専門家による事前の輸出相談、輸出用の商品開発などにかかる費用の補助、輸出商社とのマッチングなどを一気通貫で実施します。日本の中小企業と国内大手企業や海外企業のマッチングを行なっているジェグテックも、このプログラムを後押ししています。
また、2025年4月13日から10月13日の日程で開催されるのが、大阪・関西万博です。ジェグテックでは日本語と英語の2か国語で情報発信する「大阪・関西万博マッチングサイト」を開設します。エシカル、宇宙、スタートアップなど、重点6分野で海外展開を目指す日本企業約2万社の情報を掲載するほか、オンライン展示会の開催も予定しています。
スタートアップや中小企業に対するこれら支援策について、雨宮氏はVC視点から活用にあたってのポイントを指摘します。
「新規輸出1万者支援プログラムは、日本の将来的な市場規模を考えたときに、海外へのビジネス展開は市場を広げることになりますので、企業にとっても利用を検討した方がいいプログラムです。その際には、ジェグテックが提供するオンライン展示会などを活用することも有効でしょう。
ただ、海外への輸出を考えるときに大事なことは、海外で売れるものを持っているかどうかです。プロダクトの価値を海外の人に受け入れてもらえなければ、どれだけ売る場所を作ったとしても無駄になります。海外輸出を考える企業には、自社のものづくりの価値を再理解してもらうことが大事だと感じています」

VC視点で注目するジェグテック掲載企業
雨宮氏はスタートアップを支援するVCの立場から、ジェグテックを次のように見ています。
「ジェグテックはベンチャーや中堅・中小企業の情報が網羅されたデータベースとして魅力的です。出資先のスタートアップと一緒に取引先を探す場合にも効率がよく、国などの支援策をチェックするときにも役立ちます。『スタートアップマッチングスクエア』に掲載されている企業はすでに一定の成果をあげている注目企業が多く、私がコンタクトしたことがある企業も多く含まれています。魅力的な企業を見つけることができるのではないでしょうか」
また、雨宮氏はジェグテックに掲載されている企業のうち、VCの視点から個人的に注目している企業を3社挙げました。
「1社目は株式会社Godotです。『人間はどれだけバイアスにかかっているか』を科学的に解明してくれる企業です。生活者の行動原理を解剖して、行動科学とAIによって事業やサービスに潜むバイアスを発見し、行動変容を促してさまざまな社会課題の解決を目指しています。『このやり方が当たり前だ』と思っているものについて、『違うかもしれない』と気づきを与え、提案してくれる点に注目しています。
2社目は株式会社エマルションフローテクノロジーズです。日本原子力研究開発機構発のスタートアップで、ハイテク産業に必要不可欠な希少な非鉄金属のレアメタルを作る際に生じるPFAS(有機フッ素化合物)を分離回収する技術を確立しています。欧米では有害物質指定の拡大や報告の義務化が進んでいて、関係する企業はPFASへの対応が必須となりつつあります。
3社目は株式会社フィッシュパスです。全国380の漁協と連携して、スマートフォンアプリの『フィッシュパス』を展開していて、ユーザーは49万人に上ります。私はこの企業に以前『380ある漁協をDX化できるかが成長の鍵ではないでしょうか』とお伝えしたことがあります。その通りにDXに取り組むことで、他社があまり参入しない市場でニッチなサービスを展開しています。さらに、水産資源の保護、生物多様性を目指す取り組みを行なっている点でも注目しています」
日本にも新たな技術を持ったスタートアップは存在します。ただ、海外に比べると、スタートアップが生まれにくい面があり、成長までに苦労するケースも多く見られます。雨宮氏はその背景に「日本人の国民性」があるとしています。
「日本でスタートアップが生まれにくい背景に、リスクを嫌い、新しいものをなかなか買わない国民性があると感じています。ものを大事に使うことを美徳とする価値観が根付いているのでしょう。もちろんそれは大事なことですが、新しくて良いものの価値も認めていくことが必要です。新しくて良いものを取り入れる文化を、日本の社会全体に広げていくことが重要だと思っています」
プロフィール

雨宮 秀仁(イノベーション・エンジン株式会社 インベストメント・パートナー)
1995年日本合同ファイナンス株式会社(現・株式会社ジャフコグループ)入社
1,000を超える経営者と面談。8社に出資し、IPO実績は株式会社アスカネットなど5社
2001年株式会社アスカネット入社
フォトブックサービス提供の立ち上げに従事したほか、マーケティング全般、PR、生産ラインの構築などで「ゼロイチ」を経験し、事業黒字化によりIPOを実現した。その他、改善活動、情報セキュリティ委員・情報監査責任者、内部監査を行う
2012年株式会社メンバーズ入社
全社の品質・生産性向上の責任者として、制作工程の可視化や生産管理手法を見直すなど、メソッドの社内展開を図る。革新的なWeb運用サービスを実現
2017年イノベーション・エンジン株式会社入社
9社に出資し、IPO実績は1社