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国内・海外市場動向
ベンチャーキャピタルはどのような視点から投資先企業を発掘しているのか

独立系VCイノベーション・エンジンの雨宮秀仁氏に聞く(前編)

スタートアップの経営者にとって、
ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けることは、事業を成長させる大きな手段の一つです。
しかし、出資を受けられるまでのハードルが高いことから、苦労している経営者も多いでしょう。

VCが投資先を決める際には、どのような視点で企業を見ているのでしょうか。
独立系VCのイノベーション・エンジンでベンチャーキャピタリストとして活動し、
投資先だった事業会社でマネジメントに関わった経験もある雨宮秀仁氏に2回にわたって聞きました。
1回目は、投資先企業を決める際のポイントについてお伝えします。

重視するのは経営者の第一印象

スタートアップ企業を支援するVCで10年以上、投資を受ける側の事業会社でも活動し、合計16年のキャリアがある雨宮氏は、支援する側とされる側の双方を知るベンチャーキャピタリストです。雨宮氏は自身の豊富な経験から、投資したいスタートアップを発掘する際の一番のポイントに、最初の面談での「経営者の第一印象」を挙げました。

経営者の第一印象
「初回の面談では、まず経営者がどのような人物なのかを見ます。大事なのは第一印象ですね。私が基準にしているのは、人として魅力があること。それに、ビジネス観と人間観が私の考えと合っていることです。最初の1分くらい会話をした時点で、この後どのようなアクションをとっていくかを頭に浮かべながら面談します」

面談継続はごくわずか
なぜ経営者の第一印象が大事なのでしょうか。雨宮氏はその理由を、初回の面談を経て、2回目以降に続く確率がごくわずかしかないからだと明かします。
「私自身は出資をする可能性がある場合しか面談を続けませんので、2回目の面談に進む確率は数%に過ぎません。初回の面談では恋愛と同じように『この人と付き合っていきたい』と思うことと、相性が合うかどうかを見ています。もちろん、経営者が成功するパターンは一つではありません。経営者に必要な力として私が重視するのは、目標やミッションの達成を『なんとかする力』です。仕事はスキル、仕組み、やる気の3つに分解できます。スタートアップはスキルと仕組みが不足している分、変動性の高いやる気がどれだけ経営者にあるかが、人を動かしていく上では重要になると思っています」

売り手と買い手双方の立場から評価

雨宮氏は自らが投資に関わった企業に転職して、IPOを実現した経験があるなど、営業とマーケティングの分野に強みを持っています。

市場環境分析
スタートアップの事業を評価する際には、まず「市場環境」を分析しています。
「スタートアップがターゲットとする市場は、大きければいいわけではありません。市場が大きい場合はライバルも多くなり、後から参入してきた大手企業を敵に回して戦うケースも出てきます。私たちは大きな市場というよりも、ここ3年で伸びていく市場を探しています。プレイヤーが少なく、競合が少ない市場の方が、勝ちパターンを作りやすくなります。その市場がスタートアップに向いているのかどうかを、経営者が理解できているかが鍵になるでしょう」

独自の評価法
また、スタートアップが提供する「プロダクト」や「サービス」については、消費者と営業のそれぞれの立場から検討するのが、雨宮氏独自の評価方法です。
「まず、自分自身がそのプロダクトやサービスを買うのかどうかを考えます。さらに、自分が営業の立場でこのプロダクトを売ることができるのかどうかも検討します。買うことと売ることの両面から評価をして、判断しています」

どうすればVCから投資を受けられるのか

VCの目的は、高い成長率を示す非上場の企業に対してアグレッシブな投資を行なって、ハイリターンを狙うことです。それだけに、スタートアップが投資を受けることができるハードルは高くなっています。

雨宮氏はスタートアップがVCと最初に面談する際の準備を、次のようにアドバイスします。
「限られた時間の中で、VC側もビジネスのすべてを理解することはできません。技術が優れているとか、ビジネス自体の優位性を、わかりやすく伝える準備が大事です。そのためには、モックアップなどの試作品を見せることや、VC側から聞かれることが予想できる質問と答えを、資料として渡せるようにリスト化しておく方がいいでしょう」

そのうえで、スタートアップが事業についてどのような可能性を描けているのかが、ベンチャーキャピタリストの心を動かすポイントになると言います。
「私たちベンチャーキャピタリストは、何百、何千といったビジネスを見ているので、スタートアップの経営者よりも、該当する業界に詳しいケースがあります。その業界について、私たちよりも知らない人には出資しようとは思いません。そうではなく、私たちが見えていないところまで知っていて、私たちが『このビジネスは他とは違う』と思えるようなビジネスであれば、出資につながっていくのではないでしょうか」

出資しない企業にも価値を提供する

多くのスタートアップから日々相談を受けている雨宮氏は、前述の通り出資を決めるケースはごくわずかしかありません。それでも、出資しない会社に対しても、ベンチャーキャピタリストとしての価値を提供することを実践しています。

「出資にいたらないスタートアップとのお付き合いも大事だと思っています。その際、二つの価値を提供するようにしています。一つ目は、VCと事業会社のそれぞれの視点から、ビジネスに対して私の評価をはっきりと伝えることです。私だったらどうするのかも伝えます。二つ目は、スタートアップの事業と、私が知っている大企業やVCなどのネットワークとの間に接点を見出せるように検討することです。成立するかどうかはわかりませんが、必ず可能性を探ってみます。せっかくの一期一会なので、出資はしなくても価値を提供したいと考えています」

一方で、出資をした企業に対しては、自分が得意なことで支援をしています。

「VCから出資を受けているスタートアップは、複数のVCから支援を受けているケースがよくあります。その場合、私ができることは、経営者と同じ目線に立って事業を支援することです。事業会社でマネジメントを経験して、さまざまな苦労もしましたので、経営者の悩みもわかります。自分が得意な分野で伴走できればと思っています」

スタートアップは積極的な情報提供を

スタートアップの経営者は、出資や支援を提案する際に、どのVCとどのような付き合い方をすればいいのかわからないかもしれません。雨宮氏は、VCとの付き合いは企業単位よりも、ベンチャーキャピタリスト個人によって対応が異なることを知っておいた方がいいと助言します。

「ベンチャーキャピタリストは毎日違う企業や、事業内容が異なる企業とたくさん会っています。支援する企業に対しては、金融の観点から企業の業績を分析し、経営企画的な検討をして、マネジメントやマーケティングにも関わります。さらには、ビジネスの出口として、IPOやM&Aまでサポートします。総合的な分野を横断する能力が求められることから、『総合格闘家』と例えられることがあります。」

「ただ、全員にそのような能力があるわけではありません。ビジネスで成功や失敗を重ねたベンチャーキャピタリストが多い海外とは違い、日本では金融やコンサルで勤務した頭脳明晰で若い人が多く、経験値の面では人によって差があります。その点は理解したうえで、スタートアップとしては積極的に情報を提供して相談することで、信頼関係を築いていくことが必要ではないでしょうか」


次回は、国による企業への支援策が実施されている中で、VCの視点から見た支援策をスタートアップの成長に活かすための方法や課題について、雨宮氏に聞きます。

プロフィール

雨宮 秀仁(イノベーション・エンジン株式会社 インベストメント・パートナー)

1995年日本合同ファイナンス株式会社(現・株式会社ジャフコグループ)入社
1,000を超える経営者と面談。8社に出資し、IPO実績は株式会社アスカネットなど5社

2001年株式会社アスカネット入社
フォトブックサービス提供の立ち上げに従事したほか、マーケティング全般、PR、生産ラインの構築などで「ゼロイチ」を経験し、事業黒字化によりIPOを実現した。その他、改善活動、情報セキュリティ委員・情報監査責任者、内部監査を行う

2012年株式会社メンバーズ入社
全社の品質・生産性向上の責任者として、制作工程の可視化や生産管理手法を見直すなど、メソッドの社内展開を図る。革新的なWeb運用サービスを実現

2017年イノベーション・エンジン株式会社入社
9社に出資し、IPO実績は1社

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