海外展開では知的財産の保護は必須
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海外で自社の商品を生産し、販売していたら、他の現地企業に真似をされてしまった
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自社製品のサンプルを不用意に他社に渡したところ、その会社に現地で特許出願されてしまい、自社の技術なのに特許を取ることができなくなった
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現地の企業に技術指導をしたら、その企業が安い価格で製品を作るようになり、自社のビジネス展開が難しくなってしまった
などなど・・・
これらの悩みは、海外展開を始めたばかりの中小企業から聞こえてくるものです。優れた技術や発明を持ち、国内で特許も取得している企業が海外に進出する際、進出先の国で特許を申請しなかったために権利が侵害され、模倣品が作られるといったケースは少なくありません。
特許権は権利を取得した国だけでしか保護されないため、国内で特許権を取得していても、その効力は海外の国々には及びません。海外で製造や販売をする場合だけでなく、現地のパートナー企業と協力して製造などを行う際にも、知的財産を保護するための戦略が重要になります。そのために必要なのが、特許の国際出願です。
国際出願には二つの方法があります。一つは進出する国ごとに個別に特許出願を行う直接出願です。特許権を取得しようとする全ての国々の特許庁に対し、出願書類をそれぞれ直接提出します。
その際、その国の言語や出願様式によって書類を準備しなければならないほか、場合によっては現地の代理人を雇う必要があり、手続きが煩雑なうえ初期投資もかかるなど、中小企業にとってはハードルの高い方法です。
もう一つは、PCT国際出願と呼ばれる方法です。PCTとは特許国際条約(Patent Cooperation Treaty)のことで、グローバルでの特許出願の増加に対応して、出願人と各国の特許庁の双方の負担を軽くすることを目的に結ばれた、特許の分野における国際的な協力についての条約です。1978年に発効され、2021年4月現在の締約国は153か国にのぼります。
中小企業が海外で特許を取得する際には、直接出願よりもPCT国際出願を活用する方が多くのメリットを受けることができます。その特徴を具体的に見ていきましょう。
メリットが多いPCT国際出願
PCT国際出願のメリットの一つは、出願手続きが直接出願に比べて大幅に簡素化できることです。出願に関するほとんどの手続きは日本語だけででき、国際的に統一された出願書類を作成して、国内の特許庁に一通提出するだけで、PCT加盟国に出願したことと同じ効果が得られます。一回の手続きで複数の加盟国に出願することも可能ですので、手続きは容易かつ効率的です。
もう一つのメリットは、出願することで、その発明に対する先行技術があるかどうかを調べる国際調査が行われることです。特許審査官による「国際調査報告」が作成されるとともに、特許の新規性、進歩性、産業上の利用可能性を満たしているかどうかの見解が示された「国際調査機関の見解書」も作成されます。
入手した「国際調査報告」や「見解書」は、出願書類を修正する際や、実態審査を受ける国内移行手続に入るかどうかを検討する際に、有効な材料として活用することが可能です。
また、出願後には一定の猶予期間があります。市場動向の変化などを見極め、実際に権利を取得する国を判断した上で、国内移行手続に進むことができます。ある国に出願した日を優先日といい、国内移行手続に入るまでの猶予期間は優先日から原則30か月以内となっています。
海外展開の場合、コロナ禍や為替、市場動向などさまざまな要因でビジネスが左右されます。また、国によっては特許を取得したものの、市場として見込めないケースもあります。その場合、出願をしたあとでも国内移行手続をしないと判断すれば、翻訳の費用などの支出を回避できます。
PCT国際出願を活用することで、特許取得の可能性を精査し、厳選した国だけで手続を進めることが可能になるのです。
出願にかかる費用と中小企業への支援制度
PCT国際出願をする際には、3種類の手数料がかかります。まずは国際出願手数料です。出願用紙の枚数が30枚までの場合が15万3600万円で、30枚を超える用紙1枚に就き1700円が加算されます。ただし、オンライン出願をした場合は、3万4600円減額されます。次に送付手数料が1万円、さらに調査手数料が7万円かかります。これらの金額は、2021年4月1日現在のものです。
上記の金額をもとに計算すると、国際出願の用紙が50枚あり、日本語によるPCT国際出願を日本の特許庁に出願する場合は、国際出願手数料が15万3600円+3万4000円(1700円×20枚)-3万4600円で15万3000円になります。送付手数料と調査手数料を加えると、合計は23万3000円です。
国際出願に関して、中小企業に対する支援事業もあります。特許庁と日本貿易振興機構(ジェトロ)では、海外で取得した特許や商標などについて侵害を受けている中小企業に対し、模倣品対策支援事業を実施しています。模倣品の製造元や流通経路などを把握するための調査と、調査に基づく業者への警告や摘発などを実施し、その費用の一部を助成するものです。
また、中小企業が海外で知的財産をめぐる係争に巻き込まれた場合のセーフティネットとして、海外知財訴訟費用保険制度が2016年度に設置されています。特許庁が設置したもので、日本商工会議所や、全国の商工会議所連合会や中小企業団体中央会が運営主体を担っています。
海外での知的財産戦略の重要性は増している
日本の特許庁を受理官庁とするPCT国際出願の件数は、2011年からの10年間で増加傾向を見せています。特許庁によりますと、2011年が3万7974件だったのに対し、2019年は5万1652件まで伸びました。コロナ禍の2020年は4万9314件とやや減少したものの、高い水準を維持しています。
この数字は、企業活動や研究開発のグローバル化が大きく進展し、国内のみならず海外での知的財産戦略の重要性が一層増していることが背景にあると考えられます。
その一方で、中小企業に関しては、知的財産を活用する動きが緩やかには進展しているものの、国内の特許出願件数に占める割合は約18%にとどまっています。さらに、海外で特許を取得するには、人材も資金も不足していることから、なかなか踏み切れないのが実情と言えそうです。
それでも、多くの国で自社の製品を販売したいと考える中小企業は今後も増えていくことが予想されます。PCT国際出願と、特許庁などが用意している支援事業を活用することで、中小企業であっても、独自の技術や発明で海外進出をすることは可能です。
研究開発に加えて、知的財産戦略や経営戦略を総合的に立案し、実行していくことで、中小企業がグローバルニッチのトップを目指すことが可能になります。独自の技術を持つ中小企業が海外進出を目指す場合は、まずは特許の国際出願から検討してみてはいかがでしょうか。