2022年からFIP制度がスタート
国内で再生可能エネルギーへの注目が高まったのは、2011年に発生した東日本大震災と、福島第一原発事故からです。
政府は2012年に再生可能エネルギーで発電された電気を、電力会社が一定価格で一定の期間買い取ることを定めた「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」、いわゆるFIT制度を創設しました。FITはfeed-in Tariffの略です。電力会社が買い取る費用の一部を電気の利用者から賦課金の形で集める方式で、コストの高い再生可能エネルギーの導入を支えてきました。
その結果、設置が比較的容易な太陽光発電の導入が進み、発電容量は10年間で20倍以上に増えました。日本の太陽光の発電容量は2021年現在約60GWで、世界3位の規模を誇ります。さらに政府では2030年の累積導入量の目標を103.5~117.6GWに設定し、電源構成の14~16%を占めることを目指しています。
再生可能エネルギーには太陽光発電以外にも、陸上と洋上の風力発電、地熱発電、中小の水力発電、バイオマス発電などがあります。2022年度からはFIT制度に加えて、新たにFIP制度も始まりました。
FIPはFeed-in Premium(フィードインプレミアム)の略称です。再生エネルギーを固定価格で買い取るのではなく、再生可能エネルギーの発電業者に対して、電力を販売した時の価格に一定の助成額(プレミアム)を付与します。こうした助成を行うことで、事業者の投資インセンティブを促し、再生可能エネルギーの普及をさらに促進することが目的です。
FIT制度との違いをわかりやすく説明すると、太陽光など再生可能エネルギーで発電した電力が、安定した固定価格で買い取られるのがFIT制度。市場に合わせた変動価格で買い取られるのがFIP制度です。FIP制度では電力需要に応じて売電価格が変動するので、需要が増加した場合には買取価格も上昇するのがポイントです。
2050年にカーボンニュートラルを目指す
FIP制度の整備とともに、再生可能エネルギーの導入を後押しする政策も進められています。政府は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表。2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標に掲げました。
目標を実現するには、排出する温室効果ガスの総量を大幅に削減する必要があります。柱の1つが、再生可能エネルギーを最大限導入することです。経済産業省によると、電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は、2019年度は18%でした。これを、2030年には36~38%まで引き上げることを目指しています。
その内訳は次のようになっています。太陽光は6.7%から14~16%、風力は0.7%から5%、地熱は0.3%から1%、水力は7.8%から11%、バイオマスは2.6%から5%に引き上げる目標です。現在取り組んでいる研究開発が進んだ場合は、38%よりもさらに高い割合を目指すとしています。
ただ、現状から考えると、この目標は高すぎるのも事実です。達成する、もしくは目標に近づいていくには、企業が大胆なイノベーションを起こして、再生可能エネルギーの導入に取り組むことが欠かせません。イノベーションに挑戦する企業を後押しするために策定されたのが、「グリーン成長戦略」です。
「グリーン成長戦略」では、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、産業としての成長が期待されるとともに、温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる14の重要分野を設定。エネルギー関連産業では、洋上風力、燃料アンモニア、水素、原子力を挙げています。
この重要分野以外でも、2030年に向けて再生可能エネルギーを現在より拡大するため、様々な支援制度が整備されています。
国による再エネ導入支援制度
再生可能エネルギーの導入を支援する施策には、国が実施するものと、自治体が独自で実施するものがあります。まず、国が企業向けに実施している2022年の施策について見ていきます。
太陽光発電を導入する際の補助金には、「需要家主導による太陽光発電導入加速化補助金」があります。これは需要家が単独または発電事業者と連携して、一定規模以上の電源投資を行うとともに、FITやFIPの制度によることなく太陽光を長期的に利用する契約を締結する場合に利用できるものです。補助率は条件によって3分の2、または2分の1になります。
中小水力発電を新規に行う予定の企業や地方公共団体に対して、事業性評価などの経費の一部を補助するのが「水力発電の導入加速化補助金」です。対象経費の2分の1以内で補助されます。他にも地熱発電を行うための資源量調査や、各エネルギーの研究開発にも補助する事業があります。
融資制度もあります。「環境・エネルギー対策資金(非化石エネルギー設備関連)」は、非化石エネルギーを導入するために必要な設備を設置する際、融資を受けられる制度です。貸付期間は20年以内で、貸付限度額は中小企業事業で7億2000万円以内となっています。低金利で融資を受けることができます。
この他にも、税制優遇の制度が複数用意されています。「再生可能エネルギー発電設備に係る課税標準の特例措置」では、再生可能エネルギー発電設備を取得した事業者に対して、固定資産税を軽減します。太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマスそれぞれに対象となる設備の規模が決まっています。
東京都は「地産地消」と「都外からの調達」双方で支援
自治体が独自に支援制度に取り組んでいるケースとして、東京都の事業を見てみましょう。
まずは「地産地消型再エネ増強プロジェクト」です。これは東京都内に地産地消型の再生可能エネルギー発電設備か、または再生可能エネルギー熱利用設備を設置する事業者に対して、設備の設置にかかる経費を一部助成するものです。地産地消とは、設備の設置場所と消費場所がともに東京都内であることを指します。
助成の対象となる設備は、具体的には太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの発電設備と、あわせて導入する蓄電池です。また、熱利用設備については、太陽熱、温度差熱、地中熱、バイオマス熱の利用と、バイオマス燃料を製造する設備が対象になります。中小企業に対しては助成の上限額は1億円で、対象となる経費の3分の2以内が助成されます。この事業では温室効果ガスの排出を削減するとともに、電力系統への負荷の軽減を図ることを目的にしています。
次に紹介するのが「再エネ設備の新規導入につながる電源調達構築事業」です。この事業は東京都外に設置する再生可能エネルギーの発電設備から電力の調達に取り組む都内の需要家に対して、設備の設置にかかる経費の一部を助成するものです。発電設備を設置する地域への環境配慮や関係構築などを行うことと、固定価格買取制度の設備認定を受けないことなどが助成の条件となっています。
この事業では、電力を調達する方式が2つ想定されています。1つは自社で発電設備を持つ「自己所有モデル」。もう1つは、発電事業者から電力を固定価格で長期間購入する契約を締結したうえで、小売電気事業者を通じて自社設備に供給する「第三者所有モデル」です。2つの方式での調達を支援することで、新規導入が進めやすくなります。東京都ではこれらの事業を通して、脱炭素社会の実現を目指しています。
2022年度に実施されている支援策は、いずれも前年度までに計画されたものです。2022年に入ってからロシアによるウクライナへの侵攻や、急激な円安などもあり、再生可能エネルギーの導入拡大の気運はさらに高まっています。今後も国や自治体がさまざまな支援策を打ち出す可能性があります。導入を検討している場合は、経済産業省支援エネルギー庁や環境省、都道府県などの情報をチェックしてみてください。