J-GoodTech ジェグテック

国内・海外市場動向
QRコードを使う作業日報アプリで日々の記録の
自動化と見える化に貢献
株式会社サンコー技研

ウィズ/アフターコロナ時代に備える中小企業のDX
(デジタルトランスフォーメーション)を考える


銘板やアルミ筐体などの打ち抜き加工を行う会社として1976年に創業した株式会社サンコー技研(東大阪市)。
同社は近年、アプリ開発を通じ中小企業の生産性アップに貢献しています。
製造業の現場の不便から発想したDX化について、専務取締役の田中敬氏にお話を伺いました。

厳しい製造履歴の記録管理をデジタル化するという発想

創業以来、非鉄金属に始まり硬質プリント基板、フィルム基板、大型テレビ液晶シートなどの打ち抜き加工を得意としてきたサンコー技研。2010年代からは、私たちの生活の中でも身近な交通系非接触型ICカードの内部基板を全数担当し、その累計発行枚数は1億枚を超えています。

同社の超高精度位置決めプレス装置

「このICカードは工程管理が厳しく、現場でいつ誰が何を作ったかという製造履歴の記録を10年間分、保管しておかなくてはなりません。段ボール箱に入れた手書きの記録を保管するために、別に倉庫も借りているくらいなんです」と田中氏。

保管場所の問題のみならず、たっぷり数時間はかかる製造履歴の記録工程を何とか短縮したいと、一昨年頃からデジタルによる効率的な記録方法を探し始めました。しかし、製造業の現場の作業を簡単に記録できるような既存の方法はまったく見つからなかったと言います。

「だったら1から開発してもらおうと、ソフトウェアメーカーをいろいろ訪ねてみたんですけれど、彼らは製造業の現場を知らないので意図を伝えるのが難しく、なかなか思ったような提案をもらうには至りませんでした」

そこで田中氏は、ICカードを使った製造履歴の記録はできないか、と発想しました。

「しかし何十種類もある作業工程ごとにICカードのリーダー/ライターを置くのは現実的ではない。他にいい方法がないか、と思案していたときにPayPay(QR・バーコードを使用した電子決済サービス)が出てきて、QRコードはこんな使い方ができるのか、これを活かせないだろうかと閃いたんです」

QRコードを使用しスマートフォンで製造履歴を記録

本格的に開発のアイデアを練り始めた田中氏は、作業工程ごとにQRコードを割り振り、スマートフォンで読み取ることで記録ができないかと考えました。そして志を共にできるソフトウェア会社と手を組み、アプリの開発をスタート。まずはプロトタイプを作り、現場で導入・運用しながら意見を吸い上げ、バージョンアップを繰り返していきました。そこで大きな発見があったと言います。

作業日報アプリ「スマファク!」を使用する社員

「アプリはまず作ってみて、使いながら開発していけるということに衝撃を受けました。これまで私がやってきた製造業では、段取りをしっかり決めてしまってから取りかかるのがセオリーでしたから。『とりあえずやってみよう』という、その手法も大きな学びになりました」

そして完成したのが作業日報アプリ「スマファク!」。社内で使うだけではもったいないと2020年の4月から一般にも販売を開始したところ、製造業の経営者層から大きな注目を浴び、手応えを感じています。

「このアプリを、我が社の新しい事業の柱として発展させていきたいと考えています。製造業の現場はほとんどDX化されておらず、まさに今からなんですよね。参加企業が増えれば増えるほどフィードバックももらえると思うので、その声に応じてどんどんバージョンアップさせていくつもりです」

プレス加工の技術を使ったフェイスシールドを開発

2020年6月、同社の自社製品がさらにひとつ増えました。首掛け式フェイスシールド「スマイルシールド」です。

首掛け式フェイスシールド「スマイルシールド」

「開発のきっかけは新型コロナウイルスです。私の小学生の娘が学校にマスクをつけて通学していたのですが『先生が笑っているのかどうかよくわからない』と言うのを聞き、情操教育に悪影響があるんじゃないかと心配になりました」

そこで、マスクではなくフェイスシールドを着けて授業をしてはどうかと、田中氏自身が、額の周囲にストラップを巻き付けて装着するタイプのフェイスシールドを試しに着けてみました。しかし頭が締め付けられ、しばらくするとひどく痛くなってしまいます。「これは子どもたちには無理なんじゃないか」と、楽に使える首掛け式タイプのフェイスシールドの開発を思い立ちました。

「軽くなるようにフィルムシールドだけで形状を作りたいと、我が社の3D折り曲げプレス技術を駆使し、顔全体にフィットする3D曲面デザインを実現しました。100種類以上試作して、安定した形状になるまでは1か月半かかっています」

すぐに特許を取り、発売を開始。多くの人に使ってもらいたいと、これまで経験のなかったBtoCの販売にも乗り出しました。

「PRや営業はどうしよう、販路はどうしようと苦労しましたが、なんとか短期間で売り出すことができました。今回、驚いたのはネットショップの存在。なんだこれは、10分でショップが開けるじゃないかと。私はそれまでこういったサービスのことを何一つ知らず、どちらかというと拒否反応すらあったんですよ。でも、実際に触れてみると、中小企業には必須のツールですよね。すごい時代になったと思います」

DXのアイデアは現場に転がっている

アプリ、フェイスシールドと、立て続けに自社製品を開発してきた同社。これまでは加工・受注が業務の中心で、自社製品を持つことは長年の夢だったという田中氏は「DXのアイデアやニーズは現場に転がっていることに気がつくようになってきた」と言います。

作業日報アプリ「スマファク!」の画面

「私は技術第一主義で、プレス加工を極めればそれで生きていけると信じて走ってきたんですが、いっぽうで危機感はありました。プレス加工は大量生産の技術ですが、国内で大量生産のものづくりをしているところはどんどん減ってきていますから」

そのためには、今の延長に未来があると考えるのではなく、どんな未来にしたいのかと考えてから今を考える必要がある、と田中氏。そこで、最近では開発から携われるような仕事を積極的に探しています。

「我が社にはロボットとカメラを使って±5μmで打ち抜ける独自の装置があります。この技術を要求されることは今はあまりないですが、例えば医療の分野で今後出てくるであろうバイオセンサー基盤や、ドローンなどに活用されるCFPP(炭素繊維強化プラスチック)などの打ち抜きに活用してもらうことなどで、次世代の産業に貢献できると思っています」

軌道に乗ってきた作業日報アプリ事業も、製造業だけではなく様々な分野で活用できるツールとして発展させていきたい、と意気込んでいます。

「これから中小企業にはまだまだチャンスがあると思いますね。我が社のアプリや技術がそれに役立てればと思いますし、柔軟に対応できる準備をしておきたいと思います」

FROM J-GoodTech

現場のニーズからの発想でアプリ開発、子どもの困りごとから自社の技術を使ってのフェイスシールド開発など、
DXの鍵とも言える人間中心のデザイン思考を実現している同社。
「どんな未来にしたいのかと考えてから今を考える必要がある」という田中氏の言葉には、
ウィズ/アフターコロナ時代の中小企業の在り方のヒントが詰まっていました。

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