大企業とのオープンイノベーションの進め方
第1回から3回の連載の中で、中小企業のオープンイノベーションを「顧客企業との関係の再定義」としてとらえ、そのために「自社技術を深く知ること」「エコシステムの商流の中で顧客企業との技術パートナーとしての地位を確立すること」の必要性を説明してきました。今回は、顧客企業(大企業)とのオープンイノベーションの進め方について、関東経済産業局がとりまとめた「地域中小企業のためのオープンイノベーション・プロセスモデル」(元橋教授も委員長として参画)をベースに解説いたします。
「地域中小企業のためのオープンイノベーション・プロセスモデル」では、オープンイノベーション(中小企業の技術シーズと大企業のニーズのマッチ)を実現するためのプロセスを、
① 戦略策定(ネットワークへのアクセス)
② ニーズ・シーズのマッチング
③ 協議・交渉・契約
④ 協業の実施・事業化
の4つのステップに分けています。
連載の第1回から3回までの内容に置き換えると、① 戦略策定の段階では、自社の技術を深く知り、それがどのような分野に適用できるのかを考えていきます。
② ニーズ・シーズのマッチング段階では、①で策定したシーズとニーズ(顧客開拓)のマッチングを進めていきますが、その接触機会を得るために地域の支援機関や大学との産学連携コーディネーターをぜひ活用してください。さらに、大手企業へのアプローチはハードルも高く困難ということが大きな課題になりますが、産学連携等に携わるコーディネーターの中には、大企業出身者の方も多くネットワークを活用できる可能性も広がっていきます。一方で、自治体の支援機関の活動はそれぞれの地域に分かれてしまっているケースも多いので、J-GoodTechの専門家や、余裕があれば民間会社運営のサービスなども上手に活用することで、さらに多くの機会が得られる可能性もあります。
③ 協議・交渉・契約の段階では、共同事業について具体的に案件が決まった後のステップとなります。ここでは顧客とサプライヤーといった垂直的な関係ではなく、技術パートナーとして協議に臨むと良いでしょう。ただし、契約に関する法律的な面や知財の取り扱いなど専門的な知識については、大企業の方が経験豊富でもあるので、懸念がある場合には外部の専門家や地域の弁護士会や弁理士会など、支援機関のサポートを検討しても良いでしょう。
④ 協業の実施・事業化の段階で、双方の強みを生かしながら事業を進めていくことになります。計画通りに順調にゴールへ到達できれば大成功ですが、共同で事業に取り組むと、当初想定しなかったような状況の変化により、プロジェクト自体が前進しないようなケースも残念ながら発生することがあります。そういった事態の予防策として、③の契約段階では、権利関係・双方の担務・事業責任者などを明確にし、双方で問題点を洗い出し、善後策を講じることができるようにアライアンスマネジメントを策定しておくことも重要です。
ゴールへたどり着くことは容易ではありませんが、場面場面で自社の知見や周囲のサポートを活用し進めていくことが、大企業とのオープンイノベーションを進めていくためには重要です。
連載最後となる第5回では、新しい時代の中小企業経営者像をお話しさせていただきます。
■ 第1回:オープンイノベーション=顧客企業との関係の再定義
■ 第2回:オープンイノベーションによる新事業展開
■ 第3回:エコシステムの中での技術パートナーとしての役割
■ 第4回:大企業とのオープンイノベーションの進め方
■ 第5回:新しい時代の中小企業の経営者像
元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)
1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。