J-GoodTech ジェグテック

国内・海外市場動向
オープンイノベーションによって日本の中小企業が力を取り戻すために
元橋 一之 / 東京大学教授

特集 第3回 - 5回連載
エコシステムの中での技術パートナーとしての役割


全5回にわたり産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。

中小企業が力を取り戻すために、今だからこそ注目されているのがオープンイノベーションです。
“自前主義”と対極をなす外部資源の活用、つまり社外との協業・連携により中小企業の事業拡大といかに結びつくのか。
オープンイノベーションの本質はどこにあるのか。
東京大学 元橋 一之教授にお話をうかがいました。

エコシステムの中での技術パートナーとしての役割

技術型中小企業におけるオープンイノベーションの本質は、顧客企業との1対1の関係から、よりオープンな関係を作っていくこと(関係の再定義)です。そのために中小企業からみた関係特殊的な経営資源(尖った技術)を汎用化していくことが重要な点について、第二回でご説明をしました。実は、この方向性は顧客企業の方から見てもメリットがあり、Win-Winの関係となるケースが増えてきています。この関係を理解するために重要なコンセプトがビジネスエコシステムです。

エコシステム
ビジネスエコシステム

ハーバードビジネススクールのマルコ・イアンシティ(Marco Iansiti)教授らは、企業間の有機的な連携関係をエコシステム(生態系)になぞらえました。彼らがビジネスエコシステムと呼ぶ企業間ネットワークは、システム全体で中心的な役割を果たす「キーストーン」とそれ以外の「ニッチプレーヤー」が相互補完的な関係をもって構成されているものです。キーストーンの役割は、多くのニッチプレーヤーを引きつけ、エコシステム全体に広がりをもたせることです。一方、ニッチプレーヤーはそれぞれの独自技術で、エコシステム全体の多様性に貢献していきます。両者が相まって、エコシステム全体として競争力が生まれるのです。

エコシステムに、技術型中小企業=ニッチプレイヤー、その顧客企業(大企業)=キーストーンとして当てはめてみると、顧客企業は(競合他社をキーストーンとする)別のエコシステムと競争しています。そのため自社のエコシステム内のニッチプレイヤーに対して、より尖った技術を求めます。その時、重要なニッチプレイヤーは自社の製品戦略の共有や技術サポートを惜しむことなく協力しますが、逆に自社との関係特殊性にしがみついて技術を磨かない中小企業は、エコシステム全体の中で重荷になってしまいます。

大企業―中小サプライヤーといった固定的な関係から、双方が協創するエコシステムへの転換はIoTやビッグデータといったデジタル化の進展で加速しています。その典型的な事例が自動車産業です。自動車メーカーを頂点とするサプライヤーのヒエラルキー構造はなくなっているわけではありません。しかし、自動運転技術が進み、自動車という単体を売るビジネスから、移動サービスMaaS(Mobility as a Service)モデルへの転換が進む中で、グーグルなどのITプラットフォーマーが競合相手として台頭してきています。その過程で移動サービスの開発・提供を目指した様々なエコシステムが立ち上がっています。これまでの自動車部品サプライヤーも顧客企業との垂直的な関係のビジネスにしがみつくのではなく、水平的な技術パートナーとしてWin-Winの関係を構築できるよう、自社の技術を深く知り、磨くことが求められているのです。


第4回大企業とのオープンイノベーションの進め方についてご説明をしていきます。

■ 第1回:オープンイノベーション=顧客企業との関係の再定義
■ 第2回:オープンイノベーションによる新事業展開
■ 第3回:エコシステムの中での技術パートナーとしての役割
■ 第4回:大企業とのオープンイノベーションの進め方
■ 第5回:新しい時代の中小企業の経営者像

元橋 一之(もとはし・かずゆき)
元橋教授東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)
1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

幅広く事業展開を目指す企業の方は、
ぜひジェグテックをご活用ください。

  1. TOP
  2. ジェグテックジャーナル
  3. 国内・海外市場動向
  4. 特集 – エコシステムの中での技術パートナーとしての役割