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国内・海外市場動向
オープンイノベーションによって日本の中小企業が力を取り戻すために
元橋 一之 / 東京大学教授

特集 第2回 - 5回連載
オープンイノベーションによる新事業展開


全5回にわたり産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。

中小企業が力を取り戻すために、今だからこそ注目されているのがオープンイノベーションです。
“自前主義”と対極をなす外部資源の活用、つまり社外との協業・連携により中小企業の事業拡大といかに結びつくのか。
オープンイノベーションの本質はどこにあるのか。
東京大学 元橋 一之教授にお話をうかがいました。

オープンイノベーションによる新事業展開

経営戦略における資源ベース経営論によると、企業の競争優位は、それぞれの企業がもつ経営資源に経済的価値があり、稀少で(他社と差別化ができる)、かつ模倣困難であることによって決定されます。技術型中小企業はもともと「技術力」という点で他社との差別化ができていますが、大企業に比べて資金や人材などの経営資源のサイズで不利な立場にあります。その一方で、組織が小さいことによる経営の意思決定の速さや新しいことを始める際の負荷の軽さから、ニッチな市場でも利益を出せる身軽さにおいて優位性があります。オープンイノベーションによる新事業の展開を行うためには、自社の強みを「深く」知ることが重要です。

新事業展開
自社の強みを「深く」知る

この「深く」知るということでオープンイノベーションを実現した事例として、長野県にある小松精機工作所の取り組みをご紹介します。同社は精密部品の組み立て加工を専門としていますが、取引先としていた機械式時計産業がクオーツ化の流れのなかでほぼ消滅するという経営上の危機に瀕することとなりました。そこで、自社の強みである精密加工技術をベースに自動車分野に転用し、現在では医療機器や宇宙ビジネスなど多様な方面にビジネスを展開しています。その契機は、同社の精密加工技術の原理について科学的な調査・分析を大学に依頼し、産学共同で学術論文としてまとめたことでした。ノウハウとして持っていた加工技術を科学的に掘り下げることで、時計部品用の技術を自動車や医療機器の部品加工に転用することができたのです。これらの部品の開発は、顧客企業と共同で取り組む必要がありますが、科学的な原理が分かることで、その内容を顧客企業と共有することが可能となります。つまり、(新規)顧客企業とのオープンイノベーションを効率的に進めるための汎用技術として使えるようになったのです。

この事例を一般化していくと、技術型中小企業は「尖った技術」といった他社と差別化が可能な経営資源を有していますが、この技術は特定の業種、場合によって特定の顧客企業との関係で培われたものであることが多いのです。この関係特殊的な資産を、より幅広い事業分野に適用可能な汎用的資産に転換させることが重要となります。この汎用化が、「自社の強みを深く知る」ということであり、そのために産学連携や他の企業との連携が有効なのです。ただ、そのプロセスがうまくいったとしても、当該顧客との関係は大丈夫なのか、といった疑問を持たれるでしょう。


当該顧客との関係は大丈夫なのか?という点について、第3回ビジネス・エコシステム(生態系)の概念でご説明をしていきます。

■ 第1回:オープンイノベーション=顧客企業との関係の再定義
■ 第2回:オープンイノベーションによる新事業展開
■ 第3回:エコシステムの中での技術パートナーとしての役割
■ 第4回:大企業とのオープンイノベーションの進め方
■ 第5回:新しい時代の中小企業の経営者像

元橋 一之(もとはし・かずゆき)
元橋教授東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)
1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。

幅広く事業展開を目指す企業の方は、
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