顧客企業との関係の再定義
新型コロナウィルスの流行が経済活動に大きな打撃を与えています。外出自粛による飲食業や小売業に対する直接的な影響の他、世界的なサプライチェーンの断絶により、部品が来ない、あるいは顧客企業の工場停止で部品を出荷できない、といった様々な影響が出始めています。今年中に経済活動を完全に元に戻せるのか、あるいはもっと長期にわたって感染拡大防止とのバランスを考えていくべきか先が見通せない状況で、多くの中小企業の経営環境は厳しいものとなっています。
このような状況下で「オープンイノベーション」と言われても、その前にこの状況を生き抜くことこそが必要だと思われる経営者の方も多いでしょう。しかし、この厳しい状況にこそ、オープンイノベーションの意義がより鮮明に見えてくるということもあります。
J-GoodTechに関心を持たれている、あるいは登録されている中小企業の皆さんが、ほとんどはB2Bビジネスを営まれているだろうと思いますが、技術ベースの中小企業におけるオープンイノベーションの本質は、「顧客企業との関係の再定義」にあります。自社の技術をベースに顧客企業における価値を創造する活動が「イノベーション」であり、そのためには「顧客企業」との連携はもとより、大学や公的試験研究機関との協力や異業種交流グループの活用など様々な「オープン」な取り組みが重要となります。
ここで言う「関係の再定義」とは顧客企業との1対1のクローズな関係から、多様な連携を通じて自社・顧客双方にとってメリットのあるオープンな関係を作っていくことを意味しています。J-GoodTechで新規顧客を開拓しようと考えられている経営者の方におかれては、何をいまさらと思われるかもしれませんが、そのために様々な外部リソースを活用する活動がオープンイノベーションなのです。
経済のグローバル化と新興国のキャッチアップ、デジタル経済の進展や経営システムの刷新(トランスフォーメーション)といった業界構造を揺るがす波が押し寄せている中で、イノベーションのオープン化で経営の柔軟性を確保することが求められています。新型コロナウィルスの流行によって将来の不透明感が増している中で、この「クローズ」から「オープン」への転換はより重要となっています。経営資源の乏しい中小企業だからこそ、さまざまな協業を通して持続的な事業展開を行う姿勢が必要とされています。
第2回からは、技術型中小企業に焦点を当てて、オープンイノベーションをどのように進めていったら良いか、順を追って解説していきます。
■ 第1回:オープンイノベーション=顧客企業との関係の再定義
■ 第2回:オープンイノベーションによる新事業展開
■ 第3回:エコシステムの中での技術パートナーとしての役割
■ 第4回:大企業とのオープンイノベーションの進め方
■ 第5回:新しい時代の中小企業の経営者像
元橋 一之(もとはし・かずゆき)
東京大学工学系研究科教授(技術経営戦略学専攻)
1986年に東京大学工学系研究科修士課程を修了し、通産省(経済産業省)入省。OECD勤務を経て、2002年から一橋大学イノベーションセンター助教授、2004年から東京大学先端科学技術研究センター助教授。2006年から東京大学工学系研究科教授に就任、現在に至る。経済産業研究所ファカルティフェロー、文部科学省科学技術学術政策研究所客員研究官、経団連21世紀政策研究所研究主幹を兼務。これまでに、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員研究員、パリ高等社会科学研究院ミシュランフェロー、中国華東師範大学客員教授(国家級高級研究者プログラム)などの兼務も経験。コーネル大学経営学修士、慶応大学商学博士。専門は、計量経済学、産業組織論、技術経営論。