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中小企業最前線

第9回テーマ「インフラ」
拡大するアジアのインフラ市場で自社のポテンシャルを発揮

「中小企業最前線」は、産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
各テーマが中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。

今回のテーマは、日本政府が輸出促進に力を注ぐ「インフラ」です。
中小企業がアジアのインフラ市場へ進出している実例や、インフラ整備により拡大する需要なども交え、
なぜ今中小企業にとってインフラが見逃せない市場なのかを詳しく解説していきます。

アジアのインフラ市場は膨大な規模に拡大

日本では少子高齢化、人口減少により、おしなべて市場縮小の傾向にあります。そこで企業にとって、ますます重要性を増しているのが、成長著しいアジアの新興国市場への進出。もちろん中小企業においても、アジア諸国へ輸出や直接投資などを行う企業の割合は、年々増加の一途です。インフラ整備にかかわる業種もアジア市場は決して無視できません。

ではアジア諸国のインフラ市場は、どんな状況にあるのでしょうか。

そのスケールは急速な経済成長を背景に、いっそう拡大していく見通しです。アジア開発銀行の推計では、2016年から30年までのアジアにおけるインフラ投資需要は、総額およそ26兆ドル(約2860兆円)にものぼります。

膨大な市場を構成するのは、発電プラント機器や鉄道、道路といった目に見えるものとは限りません。それらインフラの設計、建設、運営、管理など、多様な領域にビジネスチャンスがあるのです。

すでに、そのチャンスを手にする日本の中小企業も増えてきました。

1946年の創業以来、黒部ダムで有名な富山県黒部市の黒部川流域を中心に、国内有数の難所で電源開発、河川護岸工事等を担ってきたという従業員約60人の建設会社も、近年アジア進出を果たしました。まずはミャンマーの土木工事会社と技術供与契約を2017年に締結。翌年には現地合弁会社を設立しました。
黒部川流域でも人口が減り、公共工事の減少は避けられないことに危機感を抱いたこの建設会社は、大規模な工事の増加が見込まれるミャンマー市場に、新たな活路の一つを見出す考えでいます。

インフラ建設に伴うニーズ拡大をビジネスチャンスに

インフラ関連企業であれば、巨大なアジア市場を見逃す手はないでしょう。ただし、欧米に加え、中国や韓国の国を挙げた市場攻勢も強力です。

こうした情勢に対し、日本政府は2013年に「経協インフラ戦略会議」を立ち上げ、その翌年には「インフラシステム輸出戦略」を策定。2020年の受注目標(アジア以外の海外市場を含む)を約30兆円とし、達成への施策も方向づけています。

そして2016年、受注額は約21兆円まで増加。分野別では、情報通信が約9兆円と最多でした。情報通信インフラは、いろいろなインフラとの連携によって、いっそう受注額が伸びることも特徴です。例えば、新設される発電所に遠隔監視・データ解析システムが備わることもありますし、高速道路にはETCシステムが設置されることもあります。

似たような連鎖として、例えば空港が新設されるなら、そこへ通じる道路の建設も欠かせないでしょう。また、さまざまなインフラを整備するとき、地盤改良工事の需要が生じることも多く、その市場も形成されています。
さらに、インフラが充実するにつれ、必然的にエネルギー消費量も増加します。するとエネルギーインフラの新増設とともに、環境負荷低減策へのニーズも生まれるのです。

このように、一見異なる分野間のつながりに着目すると、インフラ市場がもつ可能性の大きさが、いっそう鮮明になってきます。

自治体による中小規模のインフラニーズにも注目

もう一つ、注目すべきは、国家プロジェクトレベルの大規模なインフラ以外にも、地方自治体などによる多くの中小規模ニーズが存在すること。「インフラ」の語感に惑わされないで、自社の強みを生かす場を獲得すべきです。

実際にアジアで活躍する、こんな中小企業も見られます。

インド南部のカルナータカ州ベンガルールで、上水道インフラ管理の一環として、水道局職員たちの漏水検知技術を向上させる技術研修プロジェクトがありました。これを横浜市の漏水調査専門会社が、州政府から直接受託。2018年に研修を実施し、同社は他の州にも同様の研修を提案していこうと意欲的です。

また川崎市にあるIT企業が2015年、タイのバンコクに現地法人を設立し、日本からの進出企業向けにITインフラの整備サポートを展開しています。進出企業の現地事業所・工場では、日本国内の拠点に比べIT分野の整備が遅れがち。あらゆる面で情報リスクや業務効率の悪さが目立つ現状を、ビジネスチャンスとしているのです。

多面的な公的支援の制度が中小企業を後押し

中小企業によるインフラの海外展開には、どのような公的支援があるのでしょうか。

日本貿易保険(NEXI)は、中小企業の海外展開に伴うリスク軽減のため、2016年度に保険期間の延長や、カントリーリスクのカバー率のアップを行いました。

また、途上国の開発ニーズと日本の中小企業の優れた技術をマッチングするJICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」もあります。これは、途上国でのビジネス展開を考えている企業の基礎調査や案件化調査にかかる費用等をJICAが支援する事業です。

このほか、当機構でも現地で連携を図るパートナーづくりを支援するため、海外の企業経営者(CEO)などを日本に招き、海外CEO商談会を開催してきました。初めに進出事例として挙げた富山県黒部市の建設会社も、この商談会からアジア進出が具体化したそうです。

アジアのインフラ市場では、先に述べたとおり競争が激化しています。ただ、その競争が顕著なのは、鉄道や橋梁など大規模なハードという意味でのインフラ。主には大企業の受注分野です。
日本の中小企業に期待されるのは、もう少しソフトなインフラ整備。より具体的には、現地社会の発展に貢献する独自性の高い技術や、人々の生活改善を促す仕組みづくりの高度なノウハウを要すプロジェクトが中心でしょう。そうした技術やノウハウは、日本らしいきめ細やかなクオリティともあいまって、アジア市場で大きなポテンシャルを発揮し得るのです。

アジアにおけるインフラ投資需要(2016〜30年)の分野別内訳
アジアにおけるインフラ投資需要(2016〜30年)の分野別内訳

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