未来が変わるビジネスマニュアル
第8回テーマ「スマート介護」
中小企業のアイデアが超高齢社会における介護業界を救う!?
「中小企業最前線」は、産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
各テーマが中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。
今回のテーマは、「スマート介護」です。
介護のスマート化、いわゆる「スマート介護」とは、ロボットやAI、ITなどの先端技術を駆使して、
業務の効率化や生産性の向上につなげる次世代の介護の形として期待されています。
少子高齢化の波をダイレクトに受け、介護の担い手の増加は見込めないなか、
介護を必要とする人は年々増加することが予想されるこれからの日本において、
社会からの要請が必然的に高まっていく分野と言えるでしょう。
では、その「スマート介護」が中小企業とどのように結びつくのか。
最新事例などを交えつつ、具体的に考えていきます。
介護業界に押し寄せる“変革”の波
ご存知のように、日本の高齢化は世界一のスピードで進行中です。
内閣府の平成30年版高齢社会白書によると、日本の65歳以上人口が総人口に占める割合は27.7%で、これが2050年には37.7%にまで上昇すると予想されています。一方、15〜64歳の労働力人口の総人口に占める割合は、2018年の60.0%から2050年には51.8%に減少。こうした人口予測からも、介護サービスへの需要は今後も高まり続けるにもかかわらず、その担い手は減少の一途をたどることが予想できます。
そんな状況のなか、大いに期待を集めているのが「スマート介護」です。では実際に、ロボットやAI、ITがどのように介護業界を助け、ものづくりを行う中小企業のビジネスチャンスにつながっていくのでしょうか。
介護のスマート化には、大きく分けて二つの方向性があります。一つは現場作業の負担減・能率アップにつなげるスマート化で、もう一つは事務作業を高効率化するスマート化。ものづくり企業には、この両面にアプローチできる可能性があります。
「スマート介護」を実現するさまざまな介護ロボット
まずは物理的に介護の現場作業を助けるスマート化を見てみましょう。その実現に欠かせないのは、「介護ロボット」と呼ばれる、ロボットやAI技術で介護利用者の自立支援や介護者の負担軽減を可能にする介護機器です。すでに多様な介護ロボットが誕生しており、介護の現場で活躍しているものも少なくありません。
例えば、大阪府の従業員数40人ほどの企業は、ベッドと車イス間の移動を手助けする介護ロボットを開発。介護を受ける側にも行う側にも配慮した設計で、両者の肉体的な負担を和らげます。
また、東京都に本社を持つセキュリティ関連機器メーカーは、本業で培ったセンシングや画像解析、通信の技術などを活かし、高齢者用の見守りシステムを開発しました。これは、例えばベッドから起き上がったり、はみ出したりといった被写体の異常行動を検知すると、スマホなどにお知らせが届き、その姿を動画で確認できるという優れもの。すでに夜間の介護現場などで活躍しているといいます。
そして、少し変わった例として、排泄を予測するロボットを開発した企業もあります。超音波センサーで膀胱の膨らみを捉えるなどして排尿のタイミングを知らせるこのロボットは、開発するや否や日本のみならずフランスやドイツなどからも引き合いがあり、グローバル市場でも注目を集める製品となりました。
介護業界の課題が顕著になるのと呼応するように、続々と誕生する介護ロボット。国もその取り組みを支援するため、情報提供やサポートに力を入れています。
その一つが、本当に使える介護機器の実現を目指し、経済産業省が立ち上げた「介護ロボットポータルサイト」です。同サイトでは、これまでに開発された介護ロボットの一覧や現場への導入事例をはじめ、介護ロボットの開発・導入に関するさまざまな情報が紹介されています。
また、介護ロボットの開発などを支援する「ロボット介護機器開発・標準化事業」の詳細などは、国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」(AMED)のサイト内で確認可能。同サイトでは、「ロボット技術の介護利用における重点分野」として経済産業省と厚生労働省が定めた6分野13項目などについても詳しく説明されています。
このように、国も2020年に介護ロボット市場500億円という目標に向かって取り組みを強力に推し進めている状況です。介護業界に潜むビジネスチャンスをうかがう中小企業にとって、このタイミングを逃す手はないでしょう。
介護業界の未来にはIT化も欠かせない
そして、実は今の介護業界で最も問題視されているのが、まだ多くの場面で文書による情報のやり取りや保管が行われていること。それが労働生産性の向上を阻んでいるという現状があります。この状況をITの導入で打破しようと、厚労省は2018年度より現場スタッフによる行政への報告を電子化し、文書を半減させる取り組みをスタートさせました。経産省も、事業所のIT化にかかる費用の一部を補助する「IT導入補助金」でこの動きを後押し。介護ロボット同様、介護のIT化も、国を挙げたサポート体制のもと進められています。
では実際、介護の事務作業を効率化するITツールとはどのようなものでしょうか?
まずはやはり業務日誌のペーパーレス化や、ケアプランの作成、介護利用者の情報共有などが容易に行えるツールでしょう。すでにさまざまなスタイルのITツールが登場していますが、日々進化する最新技術を活用し、事業者の形態や労働者の働き方などに合わせてカスタマイズされたツールなどは、今後も需要が拡大していくでしょう。
また、利用者の栄養管理や献立作成、食材の発注管理などを最適化することでコスト削減を実現するツール、あるいは複雑な請求業務をトータルで管理できる会計ツールなども重宝されるに違いありません。このほか、スタッフのスケジュール管理・給与計算などの効率化や、介護士相互の連携向上などを実現するツールなどについては、常により良いアイデアと工夫が求められ続けるはずです。
そうしたアイデアや工夫がいかにして生まれるか。ロボットにしろ、ITツールにしろ、「スマート介護」に役立つものづくりに何より必要なのは、介護業界についての知識を深めることではないでしょうか。介護業界ではいま何が課題となっていて、事業者・利用者双方はそれぞれ何を求め、そこに自社の技術はどんな解決策を提供できるか。その先に、あなたの会社が介護のスマート化を一歩先に進める関わり方が見えてくるかもしれません。
◆「介護ロボットポータルサイト」
http://robotcare.jp/
◆国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」(AMED)
https://www.amed.go.jp/
◆医療機器アイデアボックス
(医療機器開発に関する医療現場のニーズを開発企業へ橋渡しする会員登録制サービスです)
https://www.med-device.jp/db/