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[J-GoodTech特集記事]
未来が変わるビジネスマニュアル
中小企業最前線

第7回テーマ「EV」
自動車産業の大変革で、新たに生まれるチャンスをとらえる

「中小企業最前線」は、産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
各テーマが中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。
今回のテーマは、「EV(Electric Vehicle/電気自動車)」です。

自動車の製造は、日本を代表する産業の一つです。車体やその部品も含め、
自動車製造に関わる人は国内製造業人口の1割を超えると言われ、業界では多くの中小企業が活躍しています。
そこに今、EV化をはじめ大きな変化の波が押し寄せているのです。
これまでの業界関連企業に限らず、さまざまな中小企業の事業拡大とも結びつく「EV化」の背景や新たな可能性、課題などについて、
主に「ものづくり」の視点から掘り下げていきます。

EVの普及・発展が自動車製造を大きく変える

自動車業界では、今、“100年に一度”と言われる大変革が起きています。
ドイツのダイムラー社の社長は、この変革をもたらす要素として、「コネクテッド(つながる)化=Connected」「自動運転化=Autonomous」「シェア/サービス化=Shared/Service」「電動化=Electric」の頭文字をとった「CASE」というキーワードを挙げました。なかでも、今後数年で自動車業界の「ものづくり」を大きく変える原動力となるのが「電動化」、つまり「EV(Electric Vehicle/電気自動車)」の発展と普及でしょう。

21世紀後半にCO2排出量を実質ゼロとすることなどを定めた「パリ協定」の採択をきっかけに、世界ではハイブリッド車を含むエンジン車からEVへ向かう動きがさらに強まっています。2017年には、英仏両国政府が2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止することを相次いで宣言。また、中国もEVをはじめとする新エネルギー車の導入を推進しています。今後、この流れに逆行することは考えにくいでしょう。

電池に貯めた電気でモーターを動かすEVとガソリン車では、動力源、車全体の構造、車体に用いられる部品やその素材も大きく変わります。そして、これまで系列・関連メーカーなど自前主義が強かったと言われる自動車部品の調達先も変化し、外部活用が進んでいます。そこに新たなビジネスの機会が生まれるわけです。実際、部品メーカーや素材供給元となる化学業界でも、EVの普及による需要増を見越し、さまざまな企業が設備投資を進めています。

新たな部品・素材提供のチャンス

それでは具体的に、自動車のEV化でどのような変化が起こるのかを見ていきましょう。

まず、メインの動力部が大きく変わります。EVの動力源であるモーターはもちろん、その主要材料である高性能磁石、モーター用絶縁材料やインバーターなどを開発していた企業にとっては、自社の技術を活かした部品をEV用に提供し、事業を成長させるチャンスです。

電気をモーターに供給するEV用バッテリーも日本メーカーが強い分野です。現在主流となっているリチウムイオン電池の世界シェア1位は日本企業ですし、走行距離の延長や充電時間の短縮といったメリットが期待される次世代電池「全固体電池」の開発を進めている国内企業も多く存在します。これらの製造に必要な正極材料、負極材料、セパレータといった素材・部品の製造で、よりよい調達先を探している企業の期待に応えられれば、採用される可能性も高くなります。

またEVでは、車体に使われる素材も変化すると言われています。EVの課題の一つに車体を軽量化して燃費を向上させることがありますが、EVのモーターは、ガソリンエンジンほど高温にならないため、非金属の素材を車体に使いやすくなっています。そこで、車体の素材も鉄やガラスなどから軽くて丈夫な非金属素材などに置き換わっていくことが予想されます。例えば炭素繊維強化プラスチックなど、“軽くて”“丈夫”という二つの条件を満たす素材をEVメーカーに提供することも考えられるでしょう。

実際にこうした変化による需要増を見越して、部品メーカーや素材供給元となる化学業界でも、さまざまな企業が生産設備への投資を進めています。

ビジネスチャンスをとらえるための企業連携への挑戦

以上は、純粋な動力の「EV(電動)化」に関わる話でした。ただ、「自動運転化」なども含めた次世代自動車づくりにまで視点を広げれば、さらにチャンスは広がります。

自動ブレーキや車間距離制御システムを車に搭載するには、高度なモニタリング機能やセンサー類、制御ソフトウェアが欠かせません。また車のコンピュータ化が進めば、メモリ、CPUもより高品質なものが求められるでしょう。これらはサプライヤー側にとって、事業機会の拡大を意味します。

一方、自動車メーカー側から見れば、「自動運転化」などによって車の機能が複雑化すれば、開発・生産にその分手間がかかることになります。加えて、需要が増す新興国のニーズなど別の課題にも対応していかなければならない。こうした状況のなか、今検討が進められているのが、自動車製造の「モジュール化」です。

自動車の構成要素について、パーツ単体ではなく、多様な車種で共有可能なモジュール単位で調達を行うモジュール化。それによって車種の多様化と開発・生産の効率化を両立させるわけです。この取り組みで先行する欧州では、モジュール化に対応したボッシュなどのシステムサプライヤーの競争力が向上。日系自動車メーカー各社も、取り組みを加速させています。中長期的な視点で見た場合、このモジュール化への対応は必須でしょう。

ただ中小企業では、モジュール化に必要な全技術を一社でまかなうのは難しいかもしれません。そこでカギを握るのは、機械系メーカーと電子系メーカーなどによる企業間の連携です。もちろん簡単にできることではありませんが、モジュールは幅広い車種に共通して使われるため、成功すれば大きなリターンも期待できるはずです。

大変革をどう捉え、どう動くか──

自動車産業は、世界で300兆円を超えるとも言われる巨大市場。その主戦場が、エンジン車からEVに変わろうとしています。各国政府がEVの普及に力を注ぐのは、環境保護という目的に加え、自国のメーカーにEV市場で優位を取る力をつけさせたいという狙いもあるのです。日本政府も、2018年7月に「世界で販売される日本車のEV化を進め、2050年までにガソリンだけで走る車をゼロにする」という新たな目標を掲げました。

「EV化」「自動運転化」「コネクテッド化」などに対応しながら、いかに世界で選ばれる、魅力ある車を作り出していくか。その手段として注目されている手法がオープンイノベーションです。実際、自社の高度な研究力を生かし、メカトロニクス製品メーカーや大手繊維メーカー、自動車メーカーと部材や制御システムの共同開発を行いながら、自社でEVスーパーカーの開発、製造を行う開発系EVベンチャー企業も登場しています。

既存の自動車メーカーやエンジン車特有の部品を作る企業では危機感が高まっているのも事実ですが、中には、自動車用ゴム部品などを主力としていた部品メーカーが、ゴム製センサーを活用した介護用マットレスを開発し、事業の多角化を実現した転用成功例などもあります。

自動車産業に起きた変化にしっかり向き合い、EVに自社の技術を活用できないか、エンジン車に使っていた技術を別のものに転用できないか、サプライヤーとしての競争力を高めるために何ができるかという視点で市場を見つめ直す。そうすればこの変化を乗り越え、事業を伸ばすヒントが見つかるかもしれません。

EV化で需要が高まると予想される部品・素材のイメージ

幅広く事業展開を目指す企業の方は、
ぜひジェグテックをご活用ください。

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