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[J-GoodTech特集記事]
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中小企業最前線

第6回テーマ「オープンイノベーション」
自前主義を捨て、思いを共有できるパートナーと新たな成長を目指す

「中小企業最前線」は、産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
各テーマが中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。
今回のテーマは、「オープンイノベーション」です。

オープンイノベーションは、2003年にハーバード・ビジネス・スクール助教授(当時)のH.W.チェスブロウ氏が提唱した概念です。
これまでの日本企業に多かった“自前主義”と対極をなす外部資源の活用、
つまり社外との協業・連携により、イノベーションを創出することを意味します。
近年、さらに注目度を増しているこのキーワードが中小企業の事業拡大といかに結びつくのか。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション推進部
スタートアップグループ長、統括主幹の吉田剛氏にうかがいました。

もはや企業にオープンイノベーションは
欠かせない時代

まず吉田氏は、オープンイノベーションが提唱され、注目されるようになった背景をこう語ります。

「社会の変化と企業間競争はグローバルレベルで加速化・激化し、企業が勝ち残るための方策も日々変化させなければならないほどです。製品、サービス、ビジネスモデルとも、イノベーションがきわめて重要。しかし、外部を遮断した世界の中だけでそれを実現しようとしても難しい。あるいは時間がかかりすぎる。自前主義はもはや限界に達しています。したがって企業成長には、外部の技術や知恵を取り込むことが必然の時代を迎えているのです」。

中小企業によるオープンイノベーションの例といえば、あの有名な『下町ロケット』が思い浮かびます。フィクションの世界には違いありませんが、決して単なる夢物語でないことをよく知っているのは、他でもない中小企業の皆さんかもしれません。現実の世界でも、オープンイノベーションに成功している中小企業は少なくないのです。

「1956年に西陣織の工場として創業した京都のミツフジは、事業の浮き沈みを経ながらも、90年代に米国企業から電気を通す性質を備えた銀メッキ繊維のライセンスを取得しました。この繊維を織る技術を強みとし、フランスの企業や日本国内の大学とも共同開発に取り組んで、着ているだけで生体データを取得できる着衣型ウェアラブルを開発。いまやウェアラブルIoT製品のグローバルメーカーに生まれ変わり成長しています」。

また、オープンイノベーションが生み出すのは、製品だけとは限りません。例えば、ビルメンテナンスの老舗企業が、空気感染対策殺菌装置を生み出したベンチャー企業の販売代理店となり、自社が長年実践してきた安心安全な空間づくりのサービス強化を図ったという例もあります。ベンチャー企業の方は、販路を拡大できたうえ、老舗企業がもつ機械メンテナンスの技術や全国の工事拠点としての機能を事業に取り入れることができ、ビジネスモデルを進化させました。
このように、オープンイノベーションは、サービスやビジネスモデルそのものを生み出すこともあるのです。

自社の強みを把握したうえで外部との対話を

では「我が社もぜひオープンイノベーションを」と考える中小企業は、具体的に何をどう始めたらよいのでしょうか。吉田氏は、いくつかのポイントを挙げます。

「最初に肝心なのは自社のコアコンピタンス、つまり独自の強みを洗い出すことです。その際には、自社製品の納入先だけでなく、例えばその先のエンドユーザーも含め、製品がどのように使われているかを知る。その結果、現時点での最大の収益源とは異なるかもしれませんが、そこに真の強みが見えてくることもあるでしょう」。

前出のミツフジは、銀メッキ繊維がもつ消臭機能を中軸に据えて事業を展開していたところ、やがて行き詰まりました。しかし、銀メッキ繊維の“電気を通す性質”を求めているユーザーの存在から、イノベーションへの道が開けたといいます。

その次の段階として、協業・連携する相手を探すにはどうすべきか。

「外部にアピールしないことには始まりません。キーワードは“対話”ですね。しかも日ごろの取引先でなく、幅広い外部との対話。そもそもオープンイノベーションの元となる“イノベーション”の概念を定義した経済学者のシュンペーターは、最初それを『新結合』と呼びました。いろいろな人との対話を通じ、さまざまな体験がぶつかりあい、ついには結びつく。すなわちパートナーが見つかり、そこからオープンイノベーションのプロセスが始まるということです」。

その“対話”の機会としては、例えばNEDOが事務局を務めるオープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)主催のプレゼンイベント「NEDOピッチ」などが挙げられるでしょう。このイベントは、前出の殺菌装置を開発したベンチャー企業とビルメンテナンス企業の最初の出会いの場にもなっています。
同じくJOICが催すセミナーや異業種交流会のほか、自治体や経済産業局など公的機関が主催するマッチングイベントなどもあります。また、ジェグテックなどを通じて自社の優れた製品・技術・サービス等をアピールしていれば、オープンイノベーションを目指す大手企業側からアプローチしてくるということも考えられるでしょう。

「そしてもう一つ、産学連携のための本部が国立大学を中心に設けられており、その扉をノックすることも十分考慮に価します。イノベーションには地域性も深く関係しますから、そういった意味からも地域の大学との連携を深めるのも一つの手段です」。

これから産業構造の変化によっては、ある分野の製品群が需要をすっかり失わないとも限りません。そういう変化に備え、必ずしも企業単独ではなく、同業者や地域内企業が集まって、大学などとの協働を模索する。大学は企業に比べて基礎的な研究も得意ですから、現在ある製品などをさらに先端的な別の用途に使えるものへと進化させ、新たな成長につなげるようなパートナーとなり得るかもしれません。

成功のカギは経営トップのリーダーシップ

オープンイノベーションは有望な選択肢ですが、企業にはそれを阻む要因もあります。「外部連携が全社的な取り組みとなっていない」といった組織戦略の問題。「社内の理解や社内ネットワーク、コミュニティづくりを欠く」といった組織のオペレーションの問題。そして「人員・予算の不足、社内の機運が足りない」といったソフト面の問題。

「このように、オープンイノベーションを実行する場合、『敵は内にあり』ともいわれるのが実状です。新製品や新技術を目指す部門は、とかく現時点の収益を支えている部門から批判を受けやすいものです。また『外に頼らなくても自分たちでできるのに』と、自前主義にこだわる人もいます」。

こうした阻害要因を克服するカギは「経営者のリーダーシップとコミットメントにある」と吉田氏は力を込めます。

「自社技術という表現を使いますが、実際には技術は組織ではなく人に付いているもの。イノベーションも組織ではなく人が起こします。その観点からオープンイノベーション推進にふさわしい人材を選び出し、経営判断として活動や予算上の権限を与えることが、きわめて重要です。オープンイノベーションは、“未来の成長源を確保するための取り組み”という社内コンセンサスを形成するため、経営トップが全社に強力なメッセージを発信することも必要です」。

一方で、社員のモチベーションをアップさせ、自律的に進行させるためには、成功確率の高い分野を狙うことも必要。この点で、日本という国におけるメリットもありそうです。

「狙う部分としては、技術と技術が交わる融合領域です。日本はあらゆる技術が高いレベルにあるため、もともとオープンイノベーションを起こしやすい土壌だともいえるでしょう。特に中小企業なら、大企業が入りづらいニッチな分野がモノにしやすく、そうした成功例のほうが目立つ」と吉田氏は話します。

最後にオープンイノベーションを中小企業の成長につなげるためのアドバイスをうかがうと、次のように答えてくれました。

「目まぐるしく変化し続ける今の時代に、何一つ新しいことをしないままではすぐに取り残されてしまいます。ただし、オープンイノベーションを成功させるためには、非常に大きなエネルギーが必要なことも事実。それを支えるのは、『成し遂げたい』という切実な思いではないでしょうか。その思いを共有できるパートナーとの出会いを求めて、自ら最初の一歩を踏み出す。それこそが、オープンイノベーションを成功させるために欠かせない条件の一つといえるでしょう」。

◆吉田 剛氏プロフィール
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション推進部スタートアップグループ長、統括主幹

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今回の「中小企業最前線」はいかがでしたでしょうか。
本シリーズでは、今後もさまざまな業界を取り巻く話題のキーワードを切り口に、
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    めっきが創る新しい製品価値。「文化の継承と技術の発展」に貢献。あらゆる工業製品の試作めっきに対応する「めっきラボTAKAGI」を設置

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