未来が変わるビジネスマニュアル
第5回テーマ「ロジスティクス」
ロジスティクスの幅広く多様な課題をビジネスチャンスに変える
「中小企業最前線」は、産業界で話題のキーワードをテーマとして取り上げ、
各テーマが中小企業に与える影響や考えられるビジネスチャンスなどを交えて説明する連載シリーズ。
今回のテーマは、「ロジスティクス」です。
「ロジスティクス」とは、原材料の調達から製品の販売まで、サプライチェーン全体の最適化を目指す大きな概念です。
なかでも輸配送、保管、荷役といった物流における各プロセスでは、今日、多くの課題を抱えているだけに、
その解決に向けた社会的ニーズも高く、そこに企業のビジネスチャンスが多く潜んでいるといえます。
そんな物流を中心とするロジスティクスのマネジメントや、
最新技術の動向、進むべき方向性、そこで中小企業に期待される役割などについて、
日本ロジスティクスシステム協会JILS総合研究所の佐藤修司所長と興村徹副所長にうかがいました。
サービス至上主義からの脱却が課題解決への第一歩
ロジスティクスの考え方は、あらゆる企業の業務効率化とも無関係ではありません。しかし特に昨今の日本では、物流を中心とした関連業界に課題が多いのも事実。ものづくりに関わる中小企業、物流などを手がける中小企業は、この課題にどう対応し、どう自社の事業を伸ばすチャンスにつなげていくべきでしょうか。
まずはロジスティクスとの向き合い方を整理してみましょう。
国内の物流業界における一つ目の大きな課題は、貨物輸送の大部分をトラック輸送が占めているにもかかわらず、20代のトラックドライバーの割合は全体の8%と若年層のトラックドライバーが急激に減少していること。そして二つ目の課題は、過剰とも指摘される無償サービスの手厚さです。
「日本では現在、BtoBの貨物輸送でも“必要な時に、必要なものを、必要な分だけ”といったジャストインタイムを実現するため、翌日配送が慣例化しているケースが多く、積載効率も悪化。コストと労力の両面で業界を圧迫し、ドライバーに負担を強いています」。
こう聞くと、つい「ITやAIなどを利用した先端システムを」という発想が先立ちますが、その前にトライすべきことがあるといいます。
「課題解決は適切な順序で図られるべきです。その第一歩は、物流企業自身がどこかで無償サービス強化に歯止めをかけることでしょう。当協会主催の2018年度ロジスティクス大賞で経営革新賞を受賞した乾汽船(社員約70名)は、配送の効率化を図るべく、午前中に集中していた納品を午後以降にもバラす『バラちらし』を実現したことが評価されました」。
同社は、荷主(荷送人)の了解を得て、すべての納品先(荷受人)を訪問し、「バラちらし」の承諾を取りつけました。実際には納品先にとっての影響が小さいことを、ドライバーたちは把握していたのです。この取り組みにより、22.2%ものトラック台数の削減につながりました。
「このほか一つのトラックにさまざまな荷主の荷物を混載したり、また配送センターなどの物流拠点を共有したりと、物流インフラを共同利用することで無駄を削減し、全体最適を目指す共同物流の取り組みも進行しています。少なくとも国内では、今後物流の担い手の劇的な増加を望むことは難しい。そのような状況下で何ができるかを考えていくことが非常に重要です」。
ロジスティクスはそもそも軍事用語から生まれた概念で、人やモノの供給をマネジメントし、作戦を支えるという軍隊での後方支援・兵站を意味します。経済活動におけるロジスティクスでも、その本質は「いかに効率よく回すか」という工夫にあります。これは、何もロジスティクス関連企業に限らず、遅かれ早かれ同じ労働力不足という問題に直面するであろう日本の企業全体に共通して必要な考え方かもしれません。
「ただ日本の企業は、どうしても顧客別のカスタマイズに努力する。一方、世界の物流業界では標準化が進められている。物流業界において、“日本の常識は世界の非常識”と言われている部分もあります。世界の常識に倣っていくことが、効率化を目指すマネジメント上の前提ともいえるわけです」。
“ものづくり”の力が業界の救いの手に
もちろん日本が世界に誇る“ものづくり”の力を活かした課題解決も求められています。現に大手の物流拠点では、IoTやロボットをはじめとする最先端技術を活用するなど多様な自動化システムが導入されており、そうした技術・製品の市場は有望です。
2018年度ロジスティクス大賞で選考委員会特別賞を受賞したベンチャー企業のMUJINはその好例といえます。
「MUJINは独自の知能ロボットコントローラによって、品種や荷姿が千差万別の物流現場では不可能とされていた、複雑で時間を要するティーチングを必要としないピースピッキングの自動化を実現しました。年々拡大を続けるeコマース市場では、注文のピークが夜間以降に集中するため、その後の深夜から早朝までの出荷作業の担い手不足という問題を抱えていました。MUJINが開発した技術は、そうした課題の解決に直結するもので、すでに国内外で活用されています」。
このほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合機構(NEDO)の平成29年度「AIシステム共同開発支援事業」による補助金を得ながら、宅配ロボットの実用化を進めているロボットベンチャーもあります。また、物流課題の解決策として期待が高まるドローンは、まだ安全性など多くの越えるべき山は残すものの、すでに実用化に向けた実証実験が世界各地で行われています。
最先端ツールへの需要が高まれば、同時にそれらを形作るパーツや加工技術などにも注目が集まります。板金加工や樹脂成型といった分野において匠の技をもつ中小企業の力を活かす場が、こうした最先端領域にもあることはいうまでもないでしょう。
ロジスティクス市場のポテンシャル
ここで、日本の中小企業が海外の物流業界で活躍する可能性に目を転じてみます。日本の技術で東南アジアの物流課題を解決しようとする「日ASEANコールドチェーンプロジェクト」が推進されるなか、実際に現地で日本の企業には何が求められているのでしょうか。
「日本の高水準な物流サービスが、例えば東南アジアの新興国で収益を確保できるか。率直なところ、まだ現地のニーズが安定するまで時間はかかると思います。しかし低温物流については『日ASEANコールドチェーン物流ガイドライン』に基づき、まずはパイロット事業を実施すべく日本政府も動いています」。
したがって新興国のさらなる成長に伴い、日本企業も現地で成長機会を手にし得るということです。
「例えば、環境負荷の低い冷媒を使った冷凍倉庫の技術をはじめ、中小企業を含めた日本企業がもつ環境技術は、比較的早い段階で活かされるのではないでしょうか。また、日本国内では規制などで実用化できない新製品・サービスを先に海外で展開し、いずれ逆輸入するという構想も考えられるでしょう」。
一方、少子高齢化、人口減少が進む日本国内の市場にも、ビジネスチャンスを見出すことは可能です。
「人手不足の解決に資する分野は、今後とも強い。例えば進歩を重ねているピッキングロボットも、モノを取るアームの先端は、いまのところ吸盤型です。人の手のように『つかめる』、しかもモノを傷つけず、落とさないロボットの開発が待たれています」。
ものづくり企業には、これからも創意や技術力の発揮が期待されています。では、中小の物流企業についてはどうでしょう。
「例えば、高齢の単身者世帯が増えるなか、地域密着型で生活用品や介護用品を届ける、それもIoTの導入などで効率的かつ的確に配達するサービスは、高いニーズを創出できるでしょう。このサービスでは、スーパーやクリーニング店などとも連携し、日本らしい細やかさの真価を発揮してほしい。地域を見きわめて中小の物流企業がシステムをつくりあげれば、小回りの利かない大手に勝ることができるかもしれません」。
これらにとどまらず、ロジスティクス全体を俯瞰すれば、広範かつ多様な課題、すなわちニーズが潜在・顕在しているはずです。さらなる成長を目指す中小企業は、ロジスティクス関連市場を見逃すべきではないでしょう。
◆ロジスティクス大賞
https://www1.logistics.or.jp/propulsion/prize.html
◆佐藤修司氏プロフィール(写真左)
(公社)日本ロジスティクスシステム協会JILS総合研究所 所長
(社)日本能率協会、日本物的流通協会を経て、1992年、(公社)日本ロジスティクスシステム協会に転籍。人材普及開発部部長などを歴任し、2014年より現職。
◆興村 徹氏プロフィール(写真右)
(公社)日本ロジスティクスシステム協会JILS総合研究所 副所長
日本通運(株)業務部専任部長、(株)日通総合研究所取締役などを歴任。2018年、(公社)日本ロジスティクスシステム協会に入協し現職。
※掲載されている内容は取材当時のものです。
FROM J-GoodTech
今回の「中小企業最前線」はいかがでしたでしょうか。
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「ロジスティクス」に取り組んでいる企業
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